⑩
「それにしてもさ」
「ん?」
「俺たちって、出会った頃に比べたら随分話すようになったよな」
「そうだね。出会ってすぐなんて、お互いシャイだから、なかなか言葉のキャッチボールがつづかなかったよね」
「いまでも覚えているからなぁ。はじめてこのカフェに集まったとき、船見が開口一番に『えっと……すきな食べ物ってなんですか?』って訊いてきたこと。突然すぎてびっくりしたし、お見合いかと思ったぞ」
「は、恥ずかしいからやめてよ。あのときは緊張しすぎてなにを話せば良いかわからなかったんだ。それで、なぜか比企谷くんの好物を訊いてしまって……」
「すまんすまん」
「でも、それで比企谷くんが『マックスコーヒー』って答えてくれて、そのあとは割と会話は弾んだよね」
「そうそう、それで、船見がマックスコーヒーを知らなかったから、俺が力説して……ああ、そうだった。マックスコーヒーへの愛を語りすぎて、船見に引かれたんだった。黒歴史を思い出してしまった……」
「ご、ごめんごめん。それに、引いてなんかいないよ。寡黙だった比企谷くんが突然たくさん話し出したから、少しびっくりしただけだよ」
「それを世間では『引く』と言うんだけどな……」
「過去を振り返った結果、お互い恥ずかしい記憶を思い出しただけだったね。もうこの話はやめにしよう……」
* * *
「すきな食べ物と言えば、マックスコーヒー以外になにがあるの?」
「そうだな、ミラノ風ドリアかな」
「サイゼの?あれ美味しいよね。わたしもサイゼに行くときはよく食べるよ。安いしおいしいし」
「そう思うよな!サイゼのミラノ風ドリアは、人類が生んだ最大の発明の一つであってだな、なぜあの値段であれだけのクオリティが出せるのか……はっ!また俺は調子に乗って力説するところだった……ひ、引いた?」
「引いてない引いてないよ。たしかにミラノ風ドリアはおいしいし、語りたくなる気持ちもわかるよ」
「良かった。しかし船見、話がわかるな。ミラノ風ドリアを知っているとは」
「家でもたまにだけど食べるからね」
「家で?デリバリーでもあるのか?」
「比企谷くん、知らなかったんだね——えっとね、ミラノ風ドリアのソースって、市販で売ってるんだよ」
「なん……だと………」
「グラタン用のお皿ってあるでしょ?あれにバターを塗ったあと、炊いたご飯をいれて、その上からミラノ風ドリアのソース、あとはお好みでチーズを入れて、オーブントースターで焼くの」
「そ、それでミラノ風ドリアができるのか?」
「うん。流石にサイゼほどのクオリティは出せないけど、十分に美味しいミラノ風ドリアが食べられるよ」
「いまのいままで生きてきて、家でつくれるなんて知らなかった………船見、ありがとう。ほんとうにありがとう」
「ど、どういたしまして」
「ミラノ・トークで盛り上がっていたら、もうこんな時間だな。今日はお開きにするか」
「そうだね。きょうはずっとハイテンションな比企谷くんが見られて良かったよ」
「は、恥ずかしい……」
* * *
「きょうもサンキューな。特に、ミラノ風ドリアが家でつくれることを教えてくれてありがとう」
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