傷心性健忘症
それは、忘れていた過去の話。
「Hey! ひーろー! 何落ち込んでるデス!」
「……」
母さんはいつも通り、無駄にテンション高めで俺に抱きついてくる。
どこかエセ外国人っぽい喋り方が余計にそう感じさせる。
しかし母さんのそんなノリに付き合う気力は湧かない。
やはりまだ、恐怖がある。それを感じ取ってか、母さんは怪訝な声色で語りかけてくる。
「およ〜? ほんとーに元気ないデースねー?」
「いや……まだ少し……外が怖い……」
「Oh……それは大変デース!?」
「!?」
大仰に、しかし本当に心配している表情を浮かべた母さんは、しかしまた屈託のない笑顔で俺に寄りかかってくる。
俺ももう十五歳だ。こんなにべたつかれたら小恥ずかしい。
そんな俺の思いを知ってか知らずか、母さんは楽しげに歌を歌い始める。
「ガッカリして〜メソメソして〜どうしたんデース?」
「……」
「たいよーみたいに笑う〜ひーろーはどこデース!?」
「……」
ウォウウォウと返せば良いのか?
ギャグなのか本気なのか掴めかねる語り口に、少し毒気が抜かれてため息が出る。
「どこデース?」
しかし頭上から妙な圧……実際に胸を頭に押し付けてきている……を感じて、答えなきゃ解放されないと言うことを察して、さらにため息をつく。
「……ウォウウォウ」
「おー! これで元気100%デース!」
そこは勇気だろ……。ほんとそろそろ三十代も見えてきているのに落ち着かない人だ。
……そんな彼女との突っ込みどころ満載な会話は、まるで本当の家族のようで。
しかしその実、俺と彼女がこんな風に話をするようになったのはほんの……数日前の事だ。
『ももたろう』。
ガンツがそう呼んだ星人に殺されかけて、おめおめと逃げ帰って……本気で恐怖した。
もう戦いたくないと思うほどに。
「……ヒイロ?」
「……ああ、うん。何でもないよ」
嫌な思い出がフラッシュバックして、胃が掻き混ぜられたかのような気分になる。
母さんは本気で心配した表情で声を掛けてくるけど、大丈夫だと返す。
「……もし何か困った事あったら、母さんに教えてね?」
「……分かった」
「──ならOK! ひーろーはやっぱりひーろーデス!」
ニュアンス的に、やっぱり男の子だね! 的なことを言いたいのだろう。
しかしどうも疑問が湧く。
「なあ母さん。何でいつも、俺の事を──」
◇
ヒーロー。
嫌な言葉だ。聞くたびに、母さんとの思い出をほじくり返される気分だ。
何がヒーローだ。俺が何をした。
俺に救われている? 俺が母さんに何をした。
何もしなかった。母さんが星人に襲われても、何も出来なかった。
俺が出来たのは、全部が終わった後あの糞星人を『上』に送ってやることくらいだった。
何がヒーローだ。
何が救われただ。
何が。
何が……。
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