ハンバーグ
「は? 大学についていきたい?」
朝、ヒイロは呆れたような表情で言葉を返す。
「は……はい……」
「いや……なんで……」
「一人だと……こ、怖いから……です……」
「……」
響を部屋に連れ込んでから数日が経とうとしてた。
その間布団を買ったり色々家の中で生活するのに必要なものを揃えたり色々と騒がしかった。
何故か響は一緒のベッドで寝たほうが落ち着くという謎理論を展開しだしたが、普通に一蹴して布団を購入したヒイロはそこを拠点にしている。なんでも響としては、ずっと親友と一緒に寝ていたからそのほうが落ち着くらしい。
マジかよ……とちょっと引いたのはヒイロの談である。
そうした日常生活の傍ら、当たり前のようにミッションが起こりつつも、なんやかんやで響は家事を覚え、仕事をこなせる様になってきた。
そうした矢先だった。いつもは寝覚めが悪くヒイロより遅く起きる立花が、なぜか彼よりも早く起きて正座をしていた。
「……」
異様な光景に若干面食らい、更に飛んできた要望にはてなマークを頭上に浮かべていたヒイロであったが、続く言葉で彼女の意図を察しとった。
要は、彼女は星人が怖いのだ。
よくよく見てみれば彼女の表情はどこか青い。
恐らく今までのあらゆる意味で忙しくなった生活で忘れていたことを、余裕ができたことで思い出してしまったのだろう。
殺されかけたこと、自身が偽物であるということ、今後の人生のこと、星人のこと。
それらが彼女の心を押しつぶそうとしている。
精神的な疾患。PTSDと呼ばれるものが、彼女の心に負荷をかけている。
それにこの部屋には電話がない。ヒイロは固定電話を契約していないのだ。
つまりヒイロが大学に出かけた後、響は完全なる孤独となる。
「……」
そこまで察して、あれだけ響に暴言を吐き続けたヒイロも流石に口を噤む。
「……じゃ、邪魔はしませんから……」
「……」
ヒイロの表情をうかがいながら言葉を続ける響は、しかしジッと自身のことを見つめ続ける彼の考えがわからないでいた。
「……はぁ」
すると、ため息をつきながら布団から抜け出たヒイロは、頭を掻きながら台所に向かう。
そこで顔を洗いながら、響を無視して出かける準備を進める。
そのことに何も言えないまま、更に顔を青くした立花であったが、出かける準備を続けたままヒイロは響に声をかけた。
「お前、服どーすんだよ」
「えっ?」
「服だよ服。大学に高校の制服で来るつもりか?」
「ジャ」
「ジャージはだめだぞ」
「ぅっ……」
言われてみて、確かにまともな服を持っていないことに気付いた響であった。
アッとした感じの表情を浮かべる響を見て嘆息したヒイロは、しかしこう言葉をつづけた。
「……今日は午後から授業だ」
「……え?」
ヒイロはようやく響のほうを向いた。どこか試すような目で響を見つめたヒイロは、暫くの沈黙の後口を開く。
「晩飯をハンバーグにするってんなら服を買ってやるよ」
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