ハーメルン
エヴァ体験系
空挺降下!

 高度300メートル、対地速度850キロで飛行している。
 眼下には所々水没した街が広がり、投下地点マーカーが点線を曳いて地面を這っていた。
 そう、エヴァは黒い全翼輸送機の胴体下に懸吊(けんちょう)されているのだ。

「シンジ君、エヴァの姿勢制御はコンピューターがやってくれます」
「投下マーカーに合わせて、落ちていくから着地はしっかりね」
「はい!」

 リツコさんから渡された着地方法を、生身で練習してからシミュレーション訓練に参加していた。
 しかし、パラグライダーやドローンの空撮画像のように、エヴァの目を通していることもあってどうも距離感がわかりにくい。
 マヤちゃんが言うには、肩の拘束具などを使ってエヴァ自身が姿勢制御を行うらしい。
 アニメでは描写が無くて、いきなり投下されていたがこういう機能があったとは。

 緑の降下開始灯がプラグ内に灯り、輸送機のパイロットがロックボルトを外した。

「降下!」

 ガイドレールを滑ったあと、エヴァンゲリオンは空中に投げ出された。
 僅かに身じろぎするような挙動を見せた後、地面に対し垂直姿勢へと変化する。
 両足でしっかりと地面を捉え、前に倒れ込む前に、前へと大きく踏み出す。

「初号機、着地しました!」

 エントリープラグ越しにもわかる衝撃のあと、そのまま止ま……らず、倒れてズザザザッという音が流れた。

「シンジくん、踏み出しが遅いわ」

 リツコさんの講評のあとプラグが暗転し、また上空300mへと舞い戻っていた。

「エヴァンゲリオン、降下用意!」

 旧伊東沖遭遇戦から数日。
 俺はひたすら輸送機から大地へとダイブする訓練をやっていた。
 ジェットアローン停止作戦で、降下の訓練を全くしていないという問題が発覚したため執り行われることになった。
 綾波は空挺降下プログラムやら支援装備の開発時のテストパイロットという事で慣熟しているし、アスカも来日してすぐという事とドイツ支部で訓練していたこともあって免除。
 そういうわけで、シミュレーションルームで模擬体を使っているのは俺だけなのだ。
 ぶっつけ本番で生身のミサトさん握ってなくて良かったぁ。
 そんな事を考えながら降下して、着地する。
 足を前後に開き、握りつぶさないように空間を開けた左拳を前に突き出して、右腕は後ろにピンと伸ばし、頭は下へ。

「先輩、初号機の着地姿勢が……変です」
「シンジくん、どうしたの。マニュアル通りにやってちょうだい」
「すみません」
「まあ、いいわ。もう上がっていいわよ」

 そこまで言われたとき、ようやくこの姿勢が何なのか気が付いた。
 そう、「エッサッサ」だ。
 日本体育大学に伝わる応援展示で、鉢巻、上半身裸になり短パン一丁で「エッサッサ」と雄々しく叫びながら腕を前後に力強く振る。
 百聞は一見に如かず、動画サイトで見たらよくわかると思うが、エッサッサだ。
 高校時代、体育教師が日体大出身だったから男子は全学年合同、毎年体育祭でやったのだ。
 日体大出身の職員が居ればピンときただろうが、あいにく技術局にはそういう体育大学出身者は居ないのだった。

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