ハーメルン
「彼」のおしごと!
第一局 始まり

俺は九頭竜八一、プロの将棋棋士だ。
しかも、ただのプロ棋士ではない。
史上四人目の中学生棋士であり、さらに将棋界の最高タイトル、竜王の座に史上最年少の十六歳でついているプロ棋士なのだ。

なのだが…

「これで竜王奪取後十一連敗かぁ…」
俺は千駄ヶ谷の将棋会館からほど近い公園のベンチに座りながらため息をついていた。
スマホから見るネットの掲示板では、「三割竜王」「最近つまらない将棋ばかりだ」「賞金が高い竜王戦にだけリソースを割くクズ」といった俺に対する批判の言葉が並んでいた。

その画面を逃げるように閉じて、将棋のニュースがまとまっているサイトを開く。
「神鍋歩夢六段、今期勝率一位達成!」「空銀子女流二冠また勝利!対女流棋士連勝記録はどこまで続くのか?」「攻める大天使、圧倒的攻めでタイトル防衛に王手」
などなど、俺の知り合いの活躍が大きく取り上げられている。それがより一層、俺の気分を沈ませていた。

そして…
「『名人』永世七冠へ向け好発進!」
そんな記事も目に入ってくる。「名人」とは、もちろん名人のタイトルを持つ人のことを指すのだが、今の名人はあまりにも在籍期間が長く、もはやこの人自身の代名詞になっていると言っても過言ではない。…全盛期には、不可能と言われていた七冠を達成し、多くの人に注目されている将棋界のレジェンドその人だ。

だが、それ以上に俺が一番注目したのは…
「史上五人目の中学生棋士、デビューから二十二連勝を達成!!飛ぶ鳥を落とす勢いの中学生は、最高記録二十八連勝に追い付くか?」
という記事だ。
この棋士はつい最近、俺の次の中学生棋士としてデビューしたのだが、いまや、全てのプロ棋士や将棋ファン…いや、日本全国で最も注目を集めていると言っても過言ではない存在だ。もはや連盟内では、「彼」と言うだけで誰の話なのか通じてしまう。

しかし、実は十連勝くらいまではそこまで注目されていた訳ではなかった。
中学生棋士の中で最年少だったことでデビュー時に報じられこそしたものの、続報はほとんどなかったし、連勝について知っているプロ棋士の中でも、あんまりという感じだった。
何故なら、デビューしたての新四段は、魔の三段リーグを抜けてきた精鋭であるうえ、棋戦で当たる相手も下位者ばかり。
そのため、デビュー直後の勝率が八割はあって当たり前とされているからだ。

だが六段の棋士相手に()()()()()()()二十連勝を達成した頃に空気は変わり、二十二連勝を達成した今、「彼」が一勝を挙げるごとにニュースで報じられるまでになった。

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