第五局 将棋星人
「「「…………。」」」
場に重たい空気が流れる。この後、あいの脳内将棋盤が6面あることが判明し、また驚愕することになるとは、この時の俺たちは想像もしていなかった。
時を同じくして、銀子と桂香も脳内将棋盤について話していた。
「桂香さんは脳内将棋盤、どういう風に見える?」
「…ぼんやりとは見えるわ。ただ、一手進めるごとにぼやけていっちゃうけど。」
「私もそんなところ。…脳内将棋盤の鮮明度は、自分が今どれだけ正確に読めるかのベンチマークになるの。つまり、将棋の才能の指標の一つと言える。」
「…。」
「…男性と女性だと、同じくらいの棋力でも感覚が違うと感じることがある。女流棋士やアマチュアは、駒の位置を見て、そこから読んで動きを確かめる。でも、若い男のプロや奨励会高段者は、読まなくても動きを掴むことができる。――感覚として駒の利きが見えている。」
「銀子ちゃん、それは一体どういう――」
「あいつらは将棋星人なの。」
「???」
「私たちは地球人。目で見て考えるしかない。でも、あいつらは目で見る以外の情報を盤面から得ている。だから、読みの速度と局面探索の深さが全く違う…というより、そもそも読んでいない。見るだけで分かるんだから。これを『極限まで』突き詰めるとどうなると思う?」
「……。」
桂香は、あまりのことに声を発することができない。
「…八一だって脳内将棋盤を使っている。それは昔聞いた。もちろん、それが私たちのものよりよっぽど鮮明であることは確かだけど。…悔しいことに、あの小童もね。でも、その感覚を極限まで突き詰めれば……『脳内将棋盤なんてものは必要なくなる』」
「…っ!」
「だってそうでしょう?駒の利きを感覚で捉えて読みを入れられるなら、むしろ脳内将棋盤をわざわざ描き出すのは脳のリソースの無駄遣いでしかない。」
「そ、そんな人が現実に存在しうるの…?」
「あるインタビューで、脳内将棋盤を使わないと公言した人物がいる。誰だと思う?」
「…『彼』?」
「正解。…感覚で読むことができる人を将棋星人と呼ぶなら、それを極めつくした人は何て呼べばいいんだと思う?」
銀子の問いかけは、窓から見える星空の中に消えていった。
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