ハーメルン
「彼」のおしごと!
第六局 棋帝戦

その場にいない棋士の話をし続けるのもまずいと思ったのか、鹿路庭さんが方向転換をした。
「少し話がそれましたね。現局面はいかかでしょう?現地の検討では4六銀や7七金が調べられているようですが…。」
「7七角だと思います。」
「え、7七角ですか?金上がりなら取られない歩を取られてしまいますが…。」
「先手はもともと一歩得です。なので、歩を取られてでも角を働かせて行く方が名人らしい手の組み立てだと思います。壁形も解消して玉を囲いにいけますし、それに、歩を取るためには飛車を7筋に持っていくことになりますから、安定した位置まで戻すには手数がかかる。ならばそのうちにということで、角を活用した速攻も見せているんですね。」
「なるほど…あ、今指されましたね。7七角と上がりました!九頭竜先生のおっしゃる通りでしたね!」
「当たってホッとしましたよ。まあこれで歩を取りに行きつつ角を狙うというのがまあ一目あるんですけれども、明らか研究手順がありそうですし、飛車角交換の激しい将棋になってしまう…まあ、横歩はそうなりがちでもあるんですが、流石にタイトル戦のフルセット局なので、お互いもう少し間合いを測ると思います。」
このような感じで解説をしていき、途中あい達がスタジオに乱入してくるというハプニングもあったものの、対局は終盤に入っていった。
現状は名人が優勢。しかし、名人の寄せ方には違和感があった。
それをあいに解説をさせる。
「あい。最善の寄せを言ってみなさい。」
「▲9一銀に代えて▲9三銀△同玉▲7一銀です。以下後手が7一同金でも6九銀でも詰み筋です。」
ここで天衣も口を出してきた。
「というか、そもそも107手目に▲4六同歩で明快だったのに、わざわざ端に味付けなんかするからめんどくさいことになるのよ。こんなんじゃ、名人もそのうち『彼』にタイトル取られちゃうわよ?」
流石の物言いに鹿路庭さんも絶句しているようだ。
――そして、ここで篠窪棋帝が投了する。
第七局までもつれ込んだ五番勝負も、今ここで決着した。
これで名人は四冠を手にし、タイトル獲得九十九期を達成。奇しくもこの日は名人の師匠(故人)の誕生日であったという。
インタビューでは、「意識はしていませんでしたが、いいプレゼントにできたのではと思います。」と無難に回答していた。

日本中が沸くなか、俺は名人からタイトルを守らなければならなくなる可能に震えていた。
名人は竜王戦の挑戦者決定戦まで駒を進めていたからだ。果たして、篠窪さんほどの熱戦にできるだろうか。名人相手に高度な感想戦を繰り広げる篠窪さんの姿を見ながら、俺は嫌な汗が伝うのを感じていた。

[9]前 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:2/2

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析