Prologue リセット
イ404は目の前で起きた事象が信じられなかった。
自分を出来損ない、役立たずと冷たく罵っていたイ402が身を挺して自分を庇った事実を。
イ401が音響魚雷を使い、此方のソナーに頼る索敵能力を潰し、その隙を狙った浸食魚雷は完全にイ404を捉えていた。
強制波動装甲も、回避も、迎撃も間に合わない直撃コース。
優秀な姉妹達から愚鈍と称されるイ404が対応できる筈もなく。
そのまま損傷を受けて沈没するだろうと。
そのまま姉妹から見捨てられ、暗い海の底で果てるだろうと思っていた矢先に起きた出来事だった。
「どう、して……」
呟いた声は震えていて、驚愕を隠しきれないかのようで。
いつも無表情に無機質であろうとしたイ404の努力をあざ笑うかのように。
感情を演算処理する素子が、イ404のコアに揺らぎをもたらしていた。
それでもイ404は咄嗟に艦の推進装置を停止させ、損傷部分から浸水して沈没していくイ402を追いかけるように沈降深度を下げていく。
海の中では光学系によるセンサーが著しく低下する為、画像によるスキャンは出来ないが。
通信から漏れたイ402の呟きを聞き取ると修復する速度を浸食率が上回っているらしい。
このままでは艦体の再生を行う事もできず、増加する水圧によって圧潰してしまう。
助けようにもイ404の思考は酷く混乱していて、どうすれば良いのか分からなかった。
「どうして……!」
巡航潜水艦の腹の中だけでなく、メンタルモデルが接触する精神世界の中で呟かれたイ404の声。
周囲を爽やかな緑が囲い、お茶会の用意が整えられたイ号姉妹の集う場所で。
イ404は泣きそうになりながら姉であるイ402に問いかけた。
「お前を……妹を傷つけたくなかった」
ゆっくりと顔を振り向かせながら呟かれた答え。
それは妹を傷つけたくなかったという信じられない言葉。
あれほど末のイ404を罵っていたのに、あれほど出来損ないの自分を嫌っていた筈なのに。
三番目の姉は自らの躯体を罅割れさせながら、淡々と何でもない事のように告げる。
その表情は今までにないくらい優しくて、イ404は動揺を隠せなかった。
「……っ、404は402の傍に居てください。401は私が仕留めます」
一番上の姉であるイ400が初めて感情を露わにさせたような様子を見せながら、艦の推力を最大限にして水中を駆け抜ける。
遠ざかるイ401を追撃し、全ての魚雷発射管に注水。
そのまま一番から八番まで装填された浸食魚雷を連続発射する。
怒りという感情を剥き出しにして、烈火の如き雷撃を仕掛けていくイ400。
だが、どんなに怒涛の攻撃でも人間を乗せているイ401は冷静に対処してしまった。
数々の霧の戦艦や重巡洋艦をしとめた経験は伊達でなく、一分の隙もないまま攻撃が相殺される。
音響デコイで欺瞞し、艦尾魚雷によって攻撃を迎撃させ、イ号401の形状を模したアクティブデコイが盾になって攻撃が防がれる。
何より、重巡タカオと融合したイ401の性能はあらゆる面でイ400を上回っていた。
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