ハーメルン
蒼き鋼と鋼鉄のアルペジオ Cadenza
航海日記9 潜入?

 浮上した黄色い船体の上で、403は遥か遠くに存在する城塞のような"壁"を眺めていた。
 昔から軍港として使われている横須賀港。港に寄り添うように広がる街並み。
 船外に浮遊型の大型レーダーを展開して、アンテナを広げてみれば、分かるのは過去のデータよりも人口密度や商店が増えていること。
 そして、それを護るかのように広がる横須賀防壁には、湾内に侵入する為の穴がないという事か。

 少なくとも潜水艦が入れるような通り道はない。
 水上も水中も完全に壁が阻んでしまっている。
 通り抜けるのなら空を飛んでいくしかないだろうが、全長 122メートルの巨体を浮かせる方法など皆無。
 あの壁の向こう側に消えた401を、船体に乗ったまま追いかけるには、横須賀防壁を破壊するしかないようだ。

「困った。非常に困った」
「どうかしたの、お姉ちゃん?」

 ぼうっと突っ立ったまま、微動だにせず考え込んでいる403。
 そんな彼女に声を掛けるのはセイルのハッチから飛び出した501だ。
 大きすぎる服のサイズも修正されたのか、黒い水兵服は幼い少女の身体にフィットしている。

「501。あの壁を超える方法は考案可能?」
「う~ん、ちょっと考えてみます」

 隣まで寄ってきた501に、立ちはだかる壁を見据えながら問いかける403。
 しかし、501にもすぐには考えが浮かばないようで、義姉妹揃ってうんうんと悩む光景が続く。
 潮風が吹き、薄黄色に輝く銀髪と黒交じりの金髪が流れ、時間が過ぎていくなか。
 何かを思いついたのか、瞬きすらしなかった403がひとつ手を打って、何かに納得した様子を見せた。

「提案。船体を隠したあと、あの壁まで泳いで行って、そのまま登り超える」

 403の考えは至って単純。
 潜水艦ごと追いかけるのが無理ならば、人間と同じ大きさの躯体(メンタルモデル)で壁を直接よじ登るというもの。
 人間と同じような身体にも馴染みやすいよう、艦の中枢であるコアを躯体(メンタルモデル)の中に収めているとあって、その身体能力は化け物染みている。
 せいぜい百数十メートル程度の壁を乗り越えるなど造作もない。
 あとはそのまま壁を飛び降りて、壁の向こう側にある海を泳ぎ切り、地下ドックへの入り口である港湾施設を通り過ぎ、横須賀の町に潜入するだけだ。

「……無理だと思うよ? あの壁の上で人間が見張ってるもん」
「却下?」
「うん、お勧めできないです」

 でも、そんな単純明快な作戦を501は却下した。
 人間で云う視覚から映される光学映像を拡大して、壁の上を観察してみれば、人間たちが望遠鏡という道具を使って海を監視している。
 風雨や海風を凌ぐための監視施設に固定するほどの望遠鏡だ。
 その監視範囲の広さは、陸に近づく船が在ろうものなら、すぐに察知できるくらい広い。
 そんなのが壁の頂上に均等に設置され、かなりの数が沖合の海を監視している。
 しかも、風雨を凌ぐ監視施設をわざわざ建設している程だから、恐らく24時間体制の監視網。

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