航海日記10 墓地
慈悲も感情も持たない筈の兵器である霧が、ここ最近で変わろうとしている。
何らかの目的の為に人間の姿を模し、感情を学ぼうとしている?
それが何なのか、具体的には分からなかったが、彼女は明らかに変化した霧の一人であり、世界に変化をもたらせる鍵のひとつに違いない。
群像はそう考えて追いかけようとしたが、それを止めたのは群像のスーツの裾を掴んだイオナだった。
「待って、群像」
「イオナ?」
「あの子はたぶん501。イ501」
「501……この前の名古屋沖の戦闘で撃沈した船か?」
「そう」
501、それなら群像に対して罵声を浴びせるのも、群像やイオナに対して怯えるのも無理はないだろう。
何せ、彼女は群像たちの手によって直接沈められている。
それならば先の"恐怖"の感情を獲得したのも頷ける話だった。
「でも、おかしい。彼女は巡航潜水艦よりも小型の潜水艦。重巡以上の処理能力を持たない501は躯体を実装できない筈」
「そうか――なら、他の艦が躯体を維持する処理能力を肩代わりすることは可能か?」
「試してみなければ分からない。でも、大戦艦級くらいでないと処理能力がオーバーフローする可能性がある。超戦艦級なら造作もないけど」
「つまり、この近くに501以外のメンタルモデルがいると考えていも良いかもしれないな」
「そうなると、この状況では不利。二対一になったら群像を庇いきれる可能性が極端に下がる。それでも群像は追いかけるの?」
「まだ、戦うと決まった訳じゃない。それに向こうがどうこうしようなら、とっくにそうしていたさ。
501は何か別の理由があって陸に居る可能性が高い。それに、このまま放って置くわけにもいかないだろう?」
「了解。私は群像の命令に従うだけだから。でも、危なくなったら全力で逃げて」
「ああ、心配してくれてありがとう。イオナ」
もしかすると、敵の罠かもしれない。
それでも陸に、人間の住む街に入り込んだ霧のメンタルモデルを放って置くわけにはいかないと。
群像とイオナはそろって墓地を敷地を駆け抜けた。
そして。
墓地の奥に501のメンタルモデルは居た。
横須賀防壁と一帯の海域を見渡せるような場所。天使の彫像が模られた慰霊碑の後ろに隠れて見えない場所にいた。
黒交じりの金髪を海風になびかせながら、怯えたようにある少女の胸の中に抱かれている。
だが、群像は声を掛けることが出来なかった。
イオナも珍しく困惑している。
501が怯えている様子を気の毒に思った訳ではない。
501を抱き締めている存在があまりにも似すぎていたから。
そして、"彼女"があまりにも儚い表情で……
「イオナに、似ている……?」
「恐らく私の知らない姉妹艦。だけど、どうして?」
その翡翠の瞳から涙を零していたのだから。
[9]前 [1]次話 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:4/4
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク