航海日記13 確保
403の目の前には幼い少女の顔がある。
この時代にしては綺麗に整えられた栗色の髪。
二つのリボンでツインテールにした髪型はとても良く似合っていると、403はお世辞を言うならそう言葉にするだろう。
「やだやだ、離して~~!! わたしに乱暴するとおじい様に言いつけるんだから~~!!」
もっとも服の襟首を掴んで持ち上げられた彼女が暴れなければの話。
刑部蒔絵。魚雷艇とはいえ霧の艦艇を破壊した兵器、震動弾頭を実際に開発してみせた開発者の一人。
基礎理論を提唱したのは刑部藤十郎だが、それを発展させ、さらには小型化まで推し進めたのは刑部蒔絵だと言われている。
見た目は幼い少女でも、その頭脳は並みの人類が到底及ばない域に達しているらしい。
400が集めた震動弾頭に関する情報。
それに彼女の事も記載してあるので、403は蒔絵の事情をおおよそ把握していた。
が、流石はデザインチャイルドと云うべきか、大人顔負けの身体能力で抵抗してくるので、些か面倒である。
蒔絵は頻りに403の拘束から逃れようと、掴んだ腕を捻ってくるのだ。
何らかの武術の心得があるのか、彼女の動きは403から見ても合理的かつ効果的。
霧の躯体には大したことないが、素人には効果的だろう。
「Was ist denn Schwester?」
「躯体腕部に掛かる負荷は許容範囲内。問題ない。だけど、ちょっと痛い?」
隣ではすっかり変わり果てた姿のキリシマを確保しながら、501が心配そうに403を見つめていた。
その手の中には霧の本体とも言えるユニオン・コアが収まっている。
ちょうど手のひらに収まるサイズであり、金属のような質感を持ちながら、とても軽い素材で構成される演算の中枢部。
千早群像率いる蒼き鋼に挑み、そして無残にも敗れ去った姿だった。
そう、結論から言えばコンゴウが最終試練として差し向けた二隻の大戦艦。
キリシマ、ハルナから構成される派遣艦隊は横須賀を襲撃し、そしてイ号401と人類の白鯨なる潜水艦の前に敗れ去った。
戦力的に見ても圧倒的に不利なイ号401は、遥か格上の存在を打倒してみせたのだ。
これにより人類を有する霧は、戦術を得てさらに強くなるという大和の理論が証明された事になる。
結果、霧の東洋方面艦隊は"千早群像"を認め、霧の内側に入る事を納得した。
共同戦線を張る下地が整ったという訳である。
刑部蒔絵が流れ弾で吹っ飛ばされることの無いよう、キリシマ、ハルナにちょっと頼みごとをしたりもしたが、些末な問題だ。
何てことはない。陸に攻撃しないよう頼み、それを聞いてくれるなら、お礼にあの時の歌を聞かせると言っただけ。
ものすげぇ嫌そうな顔で了承されたが。
もちろんお礼は丁重に断られたのは言うまでもない。
好戦的な性格のキリシマが、403の両肩を掴んで、それはもう親切丁寧すぎる態度で断った。
具体的に言うと、面倒見の良いお姉さんが、物わかりの悪い幼子に言い聞かせるような感じ。
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