航海日記15 交戦
わざわざ蒔絵をおんぶして倉庫の中から出てきた403。
怖い思いをさせた彼女に少しでも安心して欲しいというのが理由の一つ。
もう一つは、蒔絵を密着させることでクラインフィールドの防御圏内に含められるからだ。
狙撃や不意打ち、爆発物による衝撃や熱波から彼女を確実に保護するための作戦である。
その周りをハルナと501が囲み、二人を中心とした外壁、403を中心とした内壁と二重の防壁を作り出す。
例え第一の防壁が突破されたとしても、403の防壁が確実に防ぐのだ。超強力な最終防衛ラインである。
歩兵の制圧射撃。重火器による殲滅攻撃。そして、戦車の砲弾が何十発着弾しようが、ヘリによる航空攻撃を喰らおうが耐えきれると演算結果は予測している。
イ401の対艦ミサイルですら防ぎ弾いて見せたメンタルモデルの防御能力だ。
地形を抉るほどの航空爆撃、艦砲射撃の類ですら致命打には成らないだろう。
しかも攻撃されれば、ハルナと501の躯体(メンタルモデル)が自発的に相手の排除に掛かる。
「これからどうするの、お姉ちゃん?」
「返答。蒔絵、ハルナ、キリシマ、501を船体に収納して給糧艦"マミヤ"に向かう。400とは出航前に合流予定」
501の質問に淡々と答える403。
そこには蒔絵を気遣った時のような感情の含まれた声音はなかった。
いつも通りの人形めいた無表情な瞳に、機械のような言葉が紡がれるだけである。
既に任務モードに入ったようだ。蒔絵はそんな403が怖かったのか、彼女の背中に顔を埋めた。
聞かなかったことにしたらしい。
「給糧艦? 補給艦ではないのか?」
ハルナが疑問に思ったことを口にする。
当然のことだが、霧の躯体(メンタルモデル)は食事を必要としない。
人間のようにご飯を食べることはできるが、娯楽的要素が強いのだ。
無駄も多く、食事によって体内に取り込んだ物質を、分子単位にまで分解する必要もある。
取り込んだ栄養素は動植物のように活動エネルギーに変換できず、せいぜい、成分を分析して感じる味覚がどのようなものか分類・記録する位だろうか。
躯体(メンタルモデル)取り込んだ物質がどこから排出されるかは想像にお任せしたい。
故にかつての大日本帝国海軍で活躍した船(マミヤ)は、浸食弾頭兵器やナノマテリアルを給与する補給艦として使われてきた。
それが給糧艦に逆戻りするとは、どういう理由があるのか疑問に思うのも当然であろう。
ハルナの疑問はもっともだった。
「肯定。情報によるとヤマト、コトノの命令によって改修。以後、各種施設を備えた人間のためのプラットフォームになった模様。恐らく振動弾頭の開発者を受け入れるための施設? 分からない。詳細な情報は不明瞭」
「総旗艦が?」
「ん、総旗艦は常に考えている。それが何なのかは不明。補足。着せ替え人形扱いは遠慮」
補給艦を給糧艦に改造した総旗艦『大和』の真意を正確に測るには情報が足りなかった。
403が確実に知り得ているのは、コトノに着せ替え人形にされるのは疲れるという事だ。
イオナ以外の姉たちは、着せ替えられても平気な顔をしているが、403は躯体(メンタルモデル)を弄られるのが好きではなかった。
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