ハーメルン
蒼き鋼と鋼鉄のアルペジオ Cadenza
短編1 釣りと音楽

 ヤマトとコトノが日本政府と交渉する数日前。
 天気は晴れで、波が穏やか、太陽が照りつけるような暑さだけが港を覆う。
 そんな横須賀の沖合に停泊している一隻の潜水艦に、重巡洋艦から一人の少女が飛び乗った。

「やっほ~~、403。久しぶりだね。元気してた?」
「肯定。重巡マヤ。第一巡航艦隊以来と認識」

 自らの船体である潜水艦。その薄黄色い甲板の上で、趣味という概念を獲得する為に試行錯誤していた403は、声を掛けてきたマヤに挨拶を返す。しかし、振り向くような真似はしない。傍から見れば彼女は真剣な表情で海面を見つめている。だが、内心は何も考えていない。きっと。

「何をしてるの?」
「返答。釣りという行動。竿から釣り針を垂らして、海にいる魚を捕える行為。マヤもやる?」
「やるやる~~!」

 竿を持ったまま、もう片方の手で釣竿を差し出す403。
 見れば彼女の傍に何本もの釣竿が置いてあり、まるで誰かと釣りをするのを待っていたかのようだ。
 しかし、そんな事を気にしないマヤは、笑顔で竿を受け取ると見よう見まねで釣り針を垂らす。そうして時間だけが過ぎていく。

「なるほど~~、魚が食いついたら、リールを回して吊り上げるのか。でも、これって無駄に手間が掛かるだけだよね。餌ついてないし」
「ん、単なる暇つぶし。海に潜って、素手で捕まえたほうが簡単」
「だよね~~」

 甲板を椅子代わりして腰を落ち着け、足を宙に浮かせる二人。真下は穏やかな海だが、小魚が船体に反応して跳ねることもあった。
 並んで座る彼女たちは、一人の人間にしか見えない。だが、その正体は一隻の軍艦を操る兵器。メンタルモデルだ。

 そんな彼女たちでも、何もしなければ退屈なのである。なので、こうして何かしら暇を潰していることが多い。

 重巡マヤの場合であれば歌を歌ったり、楽器を弾いたりする。同じ重巡のチョウカイであれば、油絵をひたすらに描いていることが多い。そして、403の場合は釣りを行う事だったようだ。

 もっとも、彼女のメンタルモデルは、まだまだ発展途上。釣り針に餌がついてなかったり、そもそも餌を用意していないなど、どこか抜けた一面があるのも仕方ないことだった。

「で、どうして釣りをしようと思ったの?」
「返答。疑問? 何となくしてみたくなった?」
「ふ~ん、惹かれあうってやつかな。マヤもピアノを見たときからそんな感じだったし」
「惹かれあう。人類のネットワークから該当事項を検索。ビビッときた?」
「そう、ビビッときた。マヤとピアノの出会いは運命だったんだね~~」

 身動ぎしない403とは対照的に、マヤは足をばたつかせて落ち着きがない。
 会話もマヤから話しかけるほど一方的だ。それでも、403は気分を害した様子もなくマヤに付き合っていた。
 そして一通り話しかけた後で、マヤは本題を切り出した。彼女が躯体(メンタルモデル)を持ってから、ずっと疑問に思っていたことを。

「403はさ。メンタルモデルについて疑問に思ったことはない?」
「返答。質問に対する適切な回答を持ち合わせていない。疑問の余地なし?」
「そっか。でも、不思議だよね。私達がこうなった時から、私達は"私達"だったんだもの」

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