●航海日記1 覚醒
「状況。報告」
403は淡々と確認するように呟きながら命令を遂行する。
当方、何らかの原因により自失状態にあった模様。しかし、現状において機能は回復。行動に支障はなし。原因は不明。
そう戦術ネットワークに情報をアップロードすると、すぐに了解との返事が来た。
それと共にに402が到着するまで現海域に止まり、彼女の指示に従うようにとの命令が下された。403は当然、何の疑いもなく命令を受諾する。
とはいえ402が来るまで幾ばくかの時間を要するようだ。
空間モニターに映し出される403の位置と、徐々に接近している402の位置はだいぶ離れていた。
霧の艦隊に敵対する存在は皆無と言って良いが、警戒態勢だけは怠らない方が良いだろう。
403は生真面目に周辺海域を探索する。
各種センサーを駆使し、怪しい影が存在しないか入念にチェック。
その中で監視に引っかかる動体反応が少しあった。
「海中における推進音の音響を確認。照合。該当するデータなし?」
403はそれに首を傾げる。
少なくとも人類史における艦船と、霧における艦船であれば照合しないデータは存在しない。
たとえ新型艦だとしても何らかの特徴をデータとして解析できるのだが……何も表示されなかった。
艦の性能に問題はない事は先ほど確認している。
ということは、そもそも脅威として見なしていない?
それからさまざまなアプローチを使って情報収集に努めるイ403。
相手は霧でもないのに重力子反応を探ってみたり。
軽いソナーを向けて、反応が返って来たことに息を呑んで驚いてみたり。
或いは高感度のマイクで音を拾ってみたりと好奇心旺盛である。
そもそも、隠密行動を主任務とする潜水艦が、自艦の位置を捕捉される可能性のあるアクティブソナーを軽々しく使用するのは如何なものだろうか。
ともあれ得られた結果としては彼女に戦闘態勢を解かせるには充分。そして安堵できる情報だった。
「情報確認。対象は水生哺乳類。通称イルカ――」
周辺の音を探るパッシブソナーから得られた情報。
そこから推測すれば対象は人類からイルカと称される哺乳類らしかった。
どうやら此方のアクティブソナーに反応して寄ってきているらしく、特徴的な鳴き声を聴音機が捉えている。
データによれば群れで音波を使い分けてコミュニケーションをするらしい。
パッシヴソナーが海中から音を拾い、艦内に響くイルカの鳴き声。
それを聞いていると不思議と落ち着く気がして、403は艦橋でぺたんと座り込んだ。女の子座りという奴だ。
このままイルカの鳴き声を聞きながら、402が到着するのを待っても良いかもしれない。
放って置いても害はないようだし、これも戦術を理解するための、何らかのきっかけになるかもしれないと判断。
何時になく優しい無表情?を浮かべながら、403はイルカの声に耳を傾け。
そのまま幾分かの時間が経過した時。
そう考えていた時期が彼女にもあったと後悔する事になろうとは、夢にまで思わなかったのである。
「艦周辺に動体反応多数。囲まれている……対処、不能……」
寄ってくるイルカを追い返すこともなく放って置いた結果、何と言うか囲まれてしまったのである。
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