航海日記19 恋心
アマハコトノ。
霧の東洋方面艦隊の総旗艦ヤマトのメンタルモデルの片割れ。
その姿形は第四施設焼失事件で死亡した天羽琴乃という女生徒と瓜二つ。
いや、まったく同じ容姿と声であり、群像や僧の記憶にある幼馴染と同じ性格をしていた。
どうして彼女が生きているのか。
どうして彼女が霧の艦隊と行動を共にしているのか。
どうして彼女が群像たちの前に現れたのか。
どうして、なぜ、なんで?
天羽琴乃を知る人間からは疑問が尽きなかった。
「ああ、もう! なによ、二人っきりで部屋に籠っちゃって。つまらないわ」
もっとも群像に多大な好意を寄せ、艦長として慕っている重巡タカオにとっては関係のない話である。
むしろ彼女は危機感さえ募らせていた。
急な恋敵登場という事態にどうしていいのか分からず、こうして不貞腐れてさえいた。
コトノは狼狽えるクルーや群像を尻目に、真剣な表情で大事な話があると伝えると、群像を伴い二人っきりになってしまったのだ。
そりゃあ、死んだと思われて以来、久しぶりの再会。二人っきりになりたいのも何となく分かる。
でも、いきなり総旗艦命令でタカオ、403、501に待機命令を言い渡し、イオナでさえ介入を許さない徹底ぶりなのだ。
タカオが気に食わないと思うのも無理はない。
(でも、幼馴染かぁ……人類のネットワークによると属性としては鉄板らしいのよね?)
地下港のコンテナに背中を預け、膝を抱えて座っているタカオは、アマハコトノに考えを巡らす。
自らはいわゆる"ツンデレ"という奴らしく、世の男性から好まれていた?異性の性格らしい。
対するコトノは幼馴染に加えてスタイル抜群。容姿端麗。快活明快。しかも、幼い頃から群像と接していて、彼の性格を知り尽くしている。
ということは千早群像の趣味趣向から好物に至るまで網羅しているということだ。
おまけに人間としての経験値も高く、メンタルモデルとして心身成長の発展途上にある。
タカオに勝てる要素は、はっきり言って少ない。
(アマハコトノかぁ……総旗艦、スタイル良かったなぁ。群像様はあのような容姿が好みなのかしら)
タカオは想い人の事を考えて頬を赤らめながら、目を細める。
次いで自分の胸を触ってみて、小さなため息を漏らした。
羞恥に染まっていた表情はすぐに落ち込んだものに変わる。
コトノの胸は明らかに自分よりも大きかった。
タカオの胸も決して小さいとも言わないし、形も抜群に整っている。いわゆる美乳というやつだ。
群像は大きい胸のほうが好みなんだろうか?
髪の質だって負けてはいない。艦隊を出奔して、北海道で人間について学び始めたころから、手入れは一度だって欠かしたことはない。
でも、髪の色は人間にしては珍しい青色。日本人である群像からすれば異色に映っているだろう。
それに比べてコトノは大和撫子と評されてもおかしくない黒色に、腰まで届く長い髪。
日本のお姫様と例えられても間違いではないだろう。
魅惑のふとももだって互角か、それ以上だ。
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