航海日記24 死闘! 超兵器ハリマ
ウェールズは去っていく艦隊を見ながら思う。
以前の自分なら、このような撤退を。
旗艦である自らを残して味方の撤退支援などという行為をしただろうかと。
恐らく、しなかっただろう。
部下に突撃を命じ、自らも不死身ともいえる超兵器ハリマに立ち向かい。
そして、玉砕していっただろう。
それが結果的に自己満足以外の何物でもなく。
戦略的に考えれば、戦力の無駄な消費であり、領海の占有を奪われるという愚行だということを。
そんな結果を考えもしなかっただろう。
己のプライドよって、部下を無駄死にさせる。そんな結果に終わっていたに違いない。
誇りを抱くことは大切だが、誇りを守ることに固執して、本末転倒に至ってはならないということ。
それをウェールズは思い至っていた。
切っ掛けを与えてくれたのは、躯体という概念をもたらしたヤマトである。そして躯体を実装するという考えを広めたのは、ヤマトの片割れであるアマハコトノに他ならない。
彼女が何者で、どこから来たのかウェールズには分からない。
霧の躯体なのかどうかすら怪しい。元はニンゲンだったのではないかという噂まである。
だが、そんなことはどうでもよかった。
今だけは彼女たちに感謝しよう。
おかげでウェールズ自身は誇りを違えることなく戦える。
霧の欧州英国艦隊の一員としてふさわしい、自分の最後を飾ることができる。
敬愛する大戦艦フッドの信頼に応えることができる。
それが、たまらなく嬉しかった。
躯体がなければ、そのような感情を知ることもなかったというのに。
我ながら現金な奴だな、と苦笑する。
ウェールズの役目。それは敵の情報を持ち帰ること。
謎のノイズで概念伝達を通した長距離通信は遮断されているが、一定の距離まで近づけばノイズの影響範囲内でも通信は可能だ。
ならば、撤退する味方と通信できなくなる最後の瞬間まで戦闘データを送信し、後の艦隊における戦闘の役に立つこと。
少しでも敵の超兵器の弱点を探り、味方にデータを送り届けること。
それがウェールズの思いついた事だった。
勝てないならば、勝てる戦いに繋げれば良いのだ。
その為にも撤退する部下たちを、無事に東洋方面まで逃がさなければならない。
彼女たちに情報を持って帰ってもらわなければ、何の意味もない。ウェールズの無駄死にとなってしまう。
東南アジア一帯は敵の手に落ちるだろうが、豪州近海と日本列島近海には、強力な霧の艦隊が布陣している。
そう易々と突破されることはないし、攻撃するのも難しい要所だ。防御に徹した彼らを殲滅するのは容易ではないだろう。
そんな彼らが守護する領海内に逃げてしまえば、撤退戦はウェールズが勝ったも同然になる。
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