ハーメルン
蒼き鋼と鋼鉄のアルペジオ Cadenza
航海日記26 鬼殺しの艦隊

『大戦艦フッド。プリンス・オブ・ウェールズが沈みました』
「そうですか。あの子は務めを果たしたのですね」

 概念伝達を通じて報告してきた部下。
 クイーン・エリザベス級二番艦、大戦艦ウォースパイトの言葉にフッドは静かに目を伏せた。

 ウェールズの経験は不足していたが、優秀な補佐(レパルス)や経験豊かな副官(ウォースパイト)を付けたつもりだった。

 それでもウェールズが沈んでしまったのは、ひとえに戦力配置を間違えたフッドのミスに他ならない。

 大規模なエネルギー反応に対して、異世界から転移してくる異邦艦の数は少なく、小規模だ。

 転移自体に膨大なエネルギーを消費するうえ、艦隊が巨大で在ればある程、転移の際に制約を架されると、霧の艦隊は予測している。

 それ故に転移反応が活発化していた南洋諸島でも、ウェールズ率いる東洋分遣艦隊であれば充分対処できると踏んだのだが、それが裏目に出てしまった。

 無事に東洋方面艦隊に合流し、戦術ネットワークを通して戦闘結果を報告してくれた巡洋戦艦レパルスには、不甲斐ない自身と艦隊壊滅という結果に対して謝罪された。

 それに対して弾劾するつもりはない。むしろ無事に戦域を離脱し、仔細を報告してくれたレパルスを労うくらいだ。

 今は東洋方面艦隊で補給と整備を受けさせて、安静にしてもらっている。

 残念ながら突破を支援し、殿となって追撃艦隊を食い止めたハーミーズは轟沈。
 強引に海域を突破したレパルスとヴァンパイアの損傷も大きい。
 しばらくは、霧の修理工廠で補給と整備が必要だろう。

『それと地中海などの内海封鎖を担当するイタリア艦隊ですが、同じく超兵器の奇襲で痛手を被っています』
「イタリア艦隊総旗艦のヴェネトは何と?」
『不埒な輩に制裁を加えると申して聞きません。要約すれば絶対殺してやると怒り狂っております』

 ウォースパイトの言葉にフッドは伏せていた瞼を開く。
 その視線は文字通り、火の海と化したであろう地中海に向けられている。

 何も超兵器の奇襲を受けたのは南洋諸島だけではない。
 インド洋と大西洋を結ぶ最短航路の要所、地中海も同じ状況だった。
 超巨大爆撃機アルケオプテリクスに続いて、超巨大爆撃機ジュラーヴリクによる二度目の爆撃を受けたのだ。

 しかも、完全な奇襲であり、最後の報告では突如として五機の同型超兵器に襲われたとヴェネトは忌々しそうに呟いていた。

 さらに大西洋と太平洋を結ぶパナマ運河でも、最短航路を通じた増援を防ごうと潜水艦隊による襲撃が続いているという。

 報告では放棄したハワイ方面から、潜水艦による敵の浸透作戦が開始。東洋方面と太平洋方面、オーストラリア方面に向けて続々と増援が向かってきているらしい。

 そして北極海からは未だに、太平洋と大西洋に向けた大規模な侵攻艦隊が向かってきている。

 相手が超兵器でなければ取るに足らない戦力だが、その質も徐々に上がってきている。
 まるで進化するように。


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