航海日記3 指令
総旗艦であるコトノに逆らいはしないのだ。
そのまま、403の柔らかな頬に触れたコトノは、肌に発光する文様を浮かべた。
超戦艦『大和』が持つ『大和』だけの紋様であり紋章。
それに共鳴するかのように403も全身に発光する文様を浮かび上がらせる。
途端、二人の周囲に紫電が巻き起こり、風を吹き荒す現象を巻き起こす。
それは総旗艦たる『大和』から委譲される膨大な情報の数々。403が成長する為のきっかけを与える扉の鍵。
霧を裏切った401の存在と、共に従う人間たちの情報。
東洋方面艦隊を構成する霧の艦船の情報。
全世界の海洋に展開する霧の勢力と、その派閥における関係性の情報。
世界における人間の勢力図と、その勢力の政治に関わる人間の情報。
霧の艦隊が敵対している勢力の情報。
霧に対抗するために開発された新兵器の情報。
絶対に破壊すべきであり、決して人間の手に渡してはならぬ超兵器の情報。
情報。情報。そして与えられる行動の指針。
総旗艦による干渉はメンタルモデルの中にあるコアを超えて、403が持つ船体にまで及んだ。
内部の構造を造り替えられ、403に新たな機能が加えられていく。
それは自らの身を護るための装備。
如何なる防御も貫き通す矛ではなく、それを制するための盾。
「403。私はアドミラリティ・コードに抵触しない範囲で、貴女の行動における自由を基本的に制限しないわ」
「エラー。膨大な処理において発生する熱が急速に上昇。入力される情報を処理しきれず。よって数秒後、一時的に機能を停止」
「世界は広大よ。陸には人の営みがある。海には彼らから学び取ろうとする霧の姿がある」
403はそれらを受け取りながらも、呟かれたコトノの声に反応することが出来ない。
あまりにも膨大すぎる情報を処理しきれないからだ。
人間が眠りに付いて脳の中の情報を整理するように、彼女も機能を停止して与えられた情報を最適化する必要がある。
「それらを見て、それらに触れて、貴女がどういった結論に至るのか。また会う時にでも聞かせてちょうだい」
「――シャットダウン」
「貴女が霧と人を繋ぐ架け橋になる事を祈ってる。お休みなさい。403」
そして、403は自らのメンタルモデルの制御を手放して、意識を失い。
それをコトノは優しく抱き止めるのだった。
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