航海日記4 迷子
太平洋に繋がる北極海の入り口を監視し続ける総旗艦大和と付属する総旗艦隊の面々。
それらに別れを告げて402は単艦でハワイ近海へと向かっていた。
その後ろに雛鳥のように付いて来ていた黄色い潜水艦、イ号403の姿はない。
彼女もまた単独行動を命じられているからだ。
(403の奴は大丈夫だろうか――)
艦橋の真ん中で突っ立った姿勢のまま、402は403の事を心配していた。
それは、あの姉妹艦の安否という訳ではなく、任務を遂行するにあたってポカをしないかという不安からだ。
与えられた任務の性質上、自由度が高く、好きに行動できる範囲は広い。
だからと言って403が好き勝手に行動する訳でもなく。同じ霧の船である以上、任務から大きく逸脱することはないだろう。
しかし、小さなミスは繰り返すかもしれない。
例えば向かっていた航路をいつの間にか逸れていたとか。
第一巡洋艦隊に向かったと思ったら、第二巡洋艦隊に間違えて接触してしまうとか。
そんな霧としては下らない間違いを犯しそうなのだ。
そして有り得ないと言えないのが、あの艦の特徴なのである。
(しかし、総旗艦がおっしゃるには随分と姉妹に甘えたがりらしいが)
ふと、思い出すのは総旗艦『大和』のメンタルモデルの片割れであるコトノが語っていたこと。
情報を与えられ、再起動していた403の身体を抱きかかえながら、403の事を語っていたコトノは、402に対してこう告げた。
――この子は、すごくお姉ちゃん子だから、あまり叱らないでやってね。と
確かに403は新たな任務に就く402との別れ際、心なしかものすごく寂しそうな瞳を自分に向けていた。
だから、心配するなと。概念伝達を使えばいつでも会えると。そう、安心させるように言ってやった時は少しばかり嬉しそうな顔をしていたのを思い出す。
403は変な霧の戦闘艦だ。
何らかの命令を与えられ、人間と行動を共にするイ号401と同じくらい変な存在だ。だけど。
(まあ、それも悪い気はしないな。お姉ちゃん子、か)
402は静かに微笑む。
余計な手間はかかるが、あの末っ子と共に過ごしていて、何処か居心地の良さを感じていたのは事実だ。
どうやら少しばかりあの潜水艦に毒されてしまったらしい。
このままでは任務に支障を来たすかもしれないと、感情シュミレーションの精度を一段階引き下げた彼女は、人形のような表情を浮かべて気を引き締めた。
402の目の前に映し出されているのは艦と同じ翡翠色の空間モニターであり、イ号402潜水艦の向かう航路や霧の艦隊の位置情報。その他、索敵結果などの情報が記されている。
しかし、見なくともコアの中に流れ込んでくるデータを処理すれば問題ない。
これから向かうハワイ近海から西海岸における太平洋の海には、アメリカ艦隊を模した霧の艦船が封鎖を担当している。
そして、アメリカの総旗艦艦隊は西海岸の近郊にいる筈だ。
ハワイにおける艦隊はその派遣艦隊の一部で、ハワイ諸島の封鎖と防衛を任務としている。
402はこれからの行動を考えて、まずは情報収集が先だと判断した。
ここら一帯を監視している霧の船から情報を提供してもらい。
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