ハーメルン
蒼き鋼と鋼鉄のアルペジオ Cadenza
航海日記5 出向

「報告。総旗艦艦隊直属・潜水艦隊四番艦。イ号403。第一巡航艦隊に一時着任」

 金剛型戦艦一番艦。大戦艦『金剛』の右舷に隣接した潜水艦イ号403。
 その甲板の上で艦隊指揮官である自分を見上げながら、淡々と着任の挨拶を述べる403の姿に問題はないとコンゴウは判断した。

 そう、一見すれば問題はない。
 イ号姉妹に共通する見開かれた瞳。
 人形のように無表情な顔。淡々と告げられる声。
 その全ての動作において、彼女に問題はない。403は己のハイスペックな性能を駆使して任務を遂行できる筈なのだ。

「北極海からの長旅、ご苦労だった403。別命あるまで現状を維持し、お前の広大な探知能力を駆使して海域の監視に当たれ」
「命令を承諾。特別対象が発見されるまで、第一巡洋艦隊の補助に回る」

 少なくともその筈だとコンゴウは思いたい。
 大戦艦『金剛』から距離を遠ざかり、イ号潜水艦独自の装備を展開して情報収集・海域監視にあたる403。
 空に浮かんだ二対のレーダーが薄い膜のようなパラボナアンテナを広げ、数々の霧の艦の中でも最高の探知能力を発揮し始める。

 こうして見ているだけでも信じられないと思う。
 端から見れば完璧に仕事をこなす少女が蟹の群れを追いかけて迷子になるなど。
 あまつさえ、ナガトの分遣艦隊の戦闘に巻き込まれるなど。
 
 そんな娘が自分と同じ霧だと思うと頭痛がするコンゴウだった。

「面倒くさい……」

 金剛の艦橋の頂上に座り込み、独特な黒いドレスを風にはためかせながら、コンゴウは静かに呟いた。

 何せ自分の指揮する第一巡洋艦隊は、いわゆるイロモノが多すぎるのだ。
 重巡タカオは無駄にプライドが高いし、同じくマヤは暇があれば艦隊に音楽と歌を聞かせる。
 同じ金剛型のヒエイは生徒会という形式に拘り、ハルナは人間の言葉集めが趣味で、外套がなければすぐへたれる。
 大戦艦キリシマと重巡アシガラに至っては戦闘狂の気があるときた。

 冷静に見て、まともな霧の艦がいないのである。
 しかも半数が元・第二艦隊の指揮下にあった船だ。
 あの霧の中でも特異だった性格を持つ大戦艦『日向』の部下たち。
 そこに迷子歴のある潜水艦が加われば、コンゴウが頭痛を覚えるのも仕方ないだろう。

 コンゴウの面倒くさいは、部下の管理に対する言葉だった。
 下手すれば全員好き勝手にやる連中だ。
 それを真面目な方向に統率、更生するなど骨が折れる。
 結論として問題がなければ放置がデフォに達していた。潔く諦めたとも言う。

 今更、巡航潜水艦風情を一隻更生させたところで、他の連中がまともに戻る訳でもないし、部下が任務を忠実に遂行できるならば問題ない。

「対象。大戦艦。コンゴウ。分析中。合理的かつ冷静。任務に実直と思われる。結論。姉妹艦と同じく任務を着実に遂行する存在。尊敬に値する」

 そして自分が面倒な対象だと思われていることを霞も知らず。
 403は艦隊旗艦に対して趣味の観察を行っていた。
 失礼な態度かも知れないが、情報収集は諜報を主任務とする潜水艦隊の基本である。

 そんな潜水艦隊の中でも、彼女のソレは癖のようなモノであり、外界に対して好奇心旺盛な彼女の本能とも呼べる行動だった。

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