航海日記7 監視
日本海側に展開する霧の東洋方面艦隊所属、第一巡洋艦隊。
その艦隊の中心に位置する旗艦、大戦艦コンゴウ。
彼女は艦橋の頂上に座りながら、羽根休めに留まる海鳥と戯れていた。
しかし、その顔は静かに去って行った黄色い潜水艦の方を眺めている。
「403、行っちゃったね。コンゴウ」
「マヤか」
そんな彼女に文字通り船ごと近付いて、声を掛けたのは重巡マヤである。
何時もならピアノを弾いているか、他の楽器をナノマテリアルで作成。
或いは人類の作曲した楽譜を勝手に模写しているくせに、今日は少しばかり真面目な様子。
その表情はのほほんとしていて、何を考えているのか分からないのはいつも通りだ。
「403の事が心配?」
「いや、むしろ手間の掛かる部下が減ってくれて一安心しただけだ。
それに403には特務がある。何時までも艦隊に留まる訳にも行かないだろう」
「そっか」
マヤはぶっきら棒なコンゴウの態度の裏に隠された部下を思いやる気持ちを察して微笑んだ。
艦隊旗艦殿は、迷子の潜水艦ちゃんが居なくなって清々しているが、実はその裏で感謝していることもマヤは知っているのだ。
403のおかげで軽巡ナガラは無事に帰還することが出来たのだから、総旗艦『大和』から部下を預かる身としては、一安心といった所だろう。
人類に組みするイ号401が援軍に来る可能性があった以上、ピケット艦として配置されていた軽巡ナガラを単独で作戦区域に投入するのは愚の骨頂。
本来であれば重巡を中心とした対潜特化の駆逐艦隊を派遣するところだ。
そして、霧が潜水艦狩りをやるとしたら、人類のような洗練された戦術を取れずとも、物量と火力の面制圧で圧殺するくらいの知恵はある。
それが出来なかったのは、単に未知の世界から転移してくる異邦艦の所為で、戦力を迂闊に分散できないから。
偵察用のピケット艦ならまだしも、他の艦を単独で自由気ままに行動させて、転移してきた敵艦にいきなり囲まれでもすれば、いくら霧の艦隊といえども撃沈する可能性は充分にある。その対策として霧は艦隊を組むことが多くなっていた。
まあ、人類に対する過小評価があったことも否めないコンゴウである。
大戦艦『ヒュウガ』は"油断"している所を"偶然"401に撃沈されたものだと思っていたが、401は霧の軽巡洋艦クラスなら実力で難なく撃退できるらしい。
人間を乗せた401は、搭乗員の安全を考えて戦闘能力が低下しているとコンゴウは考えていた。
生命を維持する為の区画や生活空間がどうしても余分な重荷になるからだ。
ところが401は400型潜水艦のスペック以上の能力を発揮している。
それは、403の作戦報告と彼女から提供して貰った401との戦闘データから見ても明らか。
故にコンゴウは人間を乗せた401の戦闘能力を上方修正した。
「でも、コンゴウもイジワルだよね。弾薬の補給も船体の整備も儘ならない401に、よりにもよってタカオのお姉ちゃんをぶつけるなんてさ」
「その程度の不利も覆せないような輩なら、千早群像は所詮、その程度の男だったという事だ」
「でも、総旗艦は千早群像をこっちに引き込みたいんだよね? 勝手に沈めちゃって大丈夫~~?」
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