航海日記7 監視
「向こうと相談した上での作戦予定だ。ヤマトも承認している。問題はない」
『大和』のメンタルモデルであるコトノは、異邦艦に対抗する戦力として、千早群像とその一派を霧側に引き込みたがっていた。
だが、その提案に異を唱えたのが、コンゴウを初めとしたアドミラリティ・コードに忠実な霧の艦たちだ。
"再起動した後は海洋を占有。人類を海洋から駆逐、分断せよ"という"勅令"が発されている以上、緊急事態とはいえ此方側に人間を引き込むのは躊躇われる。
故に、それに見合うだけの価値を。
要するに我々を従わせたいのなら納得するだけの実力を示せということだ。
千早群像の指揮下に入るか価値があるかどうかは別として、霧に属するなら最低限の試練は超えて貰わなければならない。
"あの男"がそうだったように。
それがコンゴウがヤマトに提示した。人間を霧に迎え入れる条件だった。
名古屋沖における海域での、まだ見ぬ激突に想いを馳せて、コンゴウは不敵に笑う。
「今度は得意の奇襲ではなく、正面から我ら霧を相手にしてもらおうか。千早群像」
17年前の大海戦で脆く、脆弱で、あっけなく霧に踏みにじられた人類の艦隊。
今度は力の差を埋めるだけの装備や、足りない実力を支える存在(イオナ)も与えられている。
こちらが差し向ける刺客を打ち破れればそれでよし。
そうでないなら群像には退場してもらって、イ401も取り戻せばいい。
来るべき新たな大海戦に向けて、もはや遊ばせておくだけの戦力は存在しないのだから。
◇ ◇ ◇
「懸念。うまく航行できるか不安」
403は艦橋内部の中心に立ちながら、様々なデータを分析。
そして、得られた情報を見て、淡々と結果だけを呟いた。その表情は日本人形のように乏しい。
経験値の多いメンタルモデルならば、眉を潜めてどうしたものかと困ったような顔をしていただろうが、彼女は稼働したてで経験値が圧倒的に足りない。
内心は感情豊かでも、それを表現する表情、動作、言語化する能力が不足しているのである。
そんな彼女の懸念事項は、名古屋沖を直撃している台風の影響だ。
海上における波の荒れ模様。強い風による船体への影響。激しい雨と厚い雲による視界不良。
水上を渡る艦船にとって、台風というのは鬼門である。
霧の艦隊は転覆こそしないが、姿勢を安定させるのに苦労するし、視界不良で索敵範囲が狭まる。
特に光学、電波系のセンサーに対する影響が著しい。砲撃だって荒れる波で船体が揺れて射線がずれるわで、良い事なんて一つもない。
しかし、台風の影響は海中に対しては少ないから、むしろ隠密行動を主とする潜水艦にとっては好都合だ。
敵の駆逐艦や軽巡洋艦の目を欺けるし、対潜哨戒機も暴風雨の真っただ中を飛行するのが困難になり、敵の監視が緩む。そうなれば相手の真下を、深々度で堂々と通り抜けるのも容易。
だというのに403は、台風に突入する前に、頻繁に航海用のデータの確認を怠らなかった。
何故かは知らないが、台風は苦手のような気がするのだ。そんな経験も無いはずなのに如何してなのだろうか。
「戦闘音。……?」
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