ハーメルン
蒼き鋼と鋼鉄のアルペジオ Cadenza
航海日記7 監視


 ふと、403の広大な探知範囲に引っかかった反応がひとつ。
 彼女は首を傾げながら、自らの船体に阻まれ見えもしないのに、視線をそちらの方に向けた。
 高性能なパッシヴソナーの拾う音は、そのほとんどが雨音だが。音の周波を分離して個別に聞き分ければ、雨音以外も聞こえる。

 独特な大気を切り裂く音。
 それに続く爆発音。
 そして別のセンサーは霧の誰もが見逃せないタナトニウム反応を検知。
 正確にはそこから放出される重力子の反応を。
 
「予定通り? タカオと401の戦闘が始まって、タカオが超重力砲を使った?」

 つまり台風の暴風圏を利用して目的地である横須賀に向かおうとした401がタカオに発見されたことを意味する。
 スペック上、諜報の為に情報戦に特化した400と402を更に大きく上回る403の索敵範囲。それを持ってすれば、相手の索敵圏外から気づかれる事無く様子を探る事など造作もない。
 そして目標である401もそうだが、味方であるタカオも403の存在を認知していないだろう。
 余計な闖入者はいない方が、お互い戦闘に集中できるし。何よりも、タカオが403の存在を知れば、必ずその索敵範囲を利用しようと助力を求めてくるはず。

 そうなれば401の勝機は限りなく低くなる。
 相手の目を掻い潜って奇襲を行う潜水艦が、常にその身を晒している状況では、勝負にすらならないだろう。
 あくまでも人を乗せた401の戦闘能力を測るのが目的であって、撃沈するのが目標ではないのだ。

 総旗艦からはあまり介入しないように言い含められているし、霧との戦闘に至っては絶対に静観するように言われている。
 だから、403はお使いのひとつを済ませる為に、遠巻きに戦闘を眺めるに留めているのである。
 もっとも、霧から送られる刺客に千早群像が負けるようなら、寸での所で止めに入れとも言われているが。

「………こくん」

 だというのに、403はもう一度首を傾げた
 そう、好奇心旺盛な彼女は、ものすごく401との戦闘が気になっているのである。
 というよりもお姉ちゃん大好きっ子な彼女は、401の様子を鮮明に見たくて堪らなかった。
 ナガラを援護した時のように、直接戦う事にでもなれば躯体(メンタルモデル)は震えだすが、遠巻きに見ている分には問題ない。

「肯定。ちょっとだけなら、問題ない」

 403は霧のネットワークを介して、タカオに対するハッキングを開始する。
 この場に402が居たのであれば、そういう問題じゃないだろ、とツッコムのだが。生憎と彼女は別の任務で傍に居ない。
 したがって403を止めるストッパーは存在せず、誰も彼女の暴走を止める事など出来なかった。

「ハッキング開始。目標、高雄型重巡洋艦一番艦『タカオ』。相手のコマンドに偽装、潜伏完了。タカオに対する演算処理及び戦闘における影響はゼロ。タカオの一部センサー類とメンタルモデルの視覚と聴覚に同期完了」

 403の視界に広がる雲一つない晴天。
 重巡タカオのメンタルモデルが見ている景色を受信した映像光景。
 台風の中心に位置しているのか、波模様は穏やかで風も少なく。遠くには恐ろしい程の暴風雨が広がっているというのに、ここは清々しいくらいの晴れやかさだ。

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