航海日記7 監視
401の探知を逃れ、優秀な目と耳を潰されないように、コバンザメのようにタカオの艦低部にアームで張り付つかせていた戦術が裏目に出た。
403が観測するタカオと同期しているデータでは、501は展開した巨大な索敵ユニットを折りたたんで艦内に収納しようとしているが、401の超重力砲が発射される方が速いだろう。403の演算予測ではそういう結果が出ている。
何よりも対象を固定するロックビームが、離脱しようとする船体の動きを阻んでいた。
「コアの感情シュミレーターに微小なラグが発生。悩んでいる?」
さて、どうしたものかと思考速度を何百倍、何千倍にも加速させながら403は自らの感情の機微を無視して考える。
ここでタカオが沈むのは霧の戦力的にもマズイ。後の影響を考えると、何とかして助け出した方がヤマトもコンゴウも喜ぶはずである。
しかし、どうやって助けるべきか。
一応、方法はある。
発射シークエンスが始まり、重力子の縮退が始まった以上、溜めこんだエネルギーを発散させないと401の船体が崩壊する。
だから、401のシステムに全力でハッキングを仕掛けて、超重力砲の仰角をずらせばいいのだ。
そうすればタカオも無事だし、401も自壊する恐れを回避できる。
同時にタカオが無防備となった401を攻撃しないよう、システムに強制介入して一時的に停止させ、代わりに403が船体を操作して401から離脱させれば良い。
しかし、それを行えば403の存在を察知される恐れがある。そうなると今後の隠密行動に支障が出るから、出来れば避けたい事案だ。
「……予想外? 理解不能?」
その時、401が不可解な行動を取った。
タカオの船体に照準を定めていた超重力砲の射軸が、タカオの真下に接続されている501に向いている。
何故かは分からないが、タカオを避けて501だけを狙うつもりらしい。
「…………」
どうしようか。501を助けるべきだろうか。
あの子は潜航型観測艦に分類される艦種で、戦闘には向いていない。
いわゆる偵察に特化した潜水艦だが、この世界に突然転移してくる異邦の船の前では意味を為さないのだ。
転移反応や空間変異など、霧の船ならば誰にでも察知できる。501の戦力としての利用価値は低い。
『……ッ! ………!?』
ふと、501のコアから発せられた声が聞こえた気がした。
必死になっている。必死になって逃げようと、死にたくないと足掻いている。
それは人間と同じ感情か? 死に対する逃避感か?
否、霧にそんな感情など実装されていない。重巡以上の船が人間を模倣して、真似しているだけの只の現象にすぎない。
ましてや、メンタルモデルを実装できない駆逐艦や小型の潜水艦に、死を恐れる心はない。
「………ッ」
いや、言い訳はよそう。
403はタカオと501を助けてあげたい。
いつの間にか悲痛に歪んでいる自分の表情も認めよう。
もう、"あんな事は"こりごりだ。目の前で"仲間(姉妹)が沈む光景"なんて見たくない!
その瞬間、403の中で誰かが目覚め、403の機能をフルに発揮していく。
「ッ――もう、誰も死なせたくないよ!」
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