ハーメルン
蒼き鋼と鋼鉄のアルペジオ Cadenza
航海日記7 監視


 口からは自分の意志ではない、誰かの想いが勝手に呟かれ。
 しかし、自らが乗っ取られたのだとしても403は“彼女”に身を任せる。
 自分よりも、“彼女”の方が処理能力が圧倒的に速い。
 
 タカオの視界を通じて、401の超重力砲に重力子が集束する光景が見えた。
 もう、401を悠長にハッキングしている時間はない。ならば別の手段を使う。

「501の演算処理に処理に強制介入! ナノマテリアルを使用して艦橋部分の急速分解、再構成! 501のユニオンコアを外郭で保護したうえで、生成した射出装置で船外に強制パージ!」

 急な演算処理の上昇に困惑する501のコアをよそに、501の艦橋内部が急速に解けて分解。
 セイルの一部に大穴が開いて、そこから新たに再構成されたナノマテリアルに包まれた501のコアが、凄まじい勢いで船外に射出されていく。
 同時に弱まるイ号401のロックビーム。潜水艦に無理やり大戦艦級の超重力砲を積んだ401の演算能力では、発射するだけでもギリギリなのだろう。
 今回はそれが幸いした。

 瞬間、射線に存在する物質を消滅させる空間兵器が照射され、もはや抜け殻と化した501の船体を貫いて対象を反応消滅させる。
 同時に収まる海を割るような空間変異。割れた海は、水底に空いた穴に流れ込むようにして元に戻り、ロックビームで捉えられて船体を浮かせていたタカオも、豪快な音を立てて海に着水した。どうやらタカオは船体も含めて無事らしい。

 501が無事に超重力砲の効果範囲から逃れられたかは分からないが、超重力砲は大半が強制波動装甲(クラインフィールド)を臨界にさせる兵器だ。
 人類が生み出したどのような装甲よりも堅牢なナノマテリアルでも、掠った瞬間に反応消滅して、分子単位の強固な結合が意味を為さない。
 コアさえ無事なら何とかなるが、可能性は五分といった所だろう。

「タカオとの同期を切断。索敵範囲の30%が低下。401の居場所をロスト、機関を停止して潜んでいると思われる。対策、401が最後に反応を示した海域のデータを保存。膨大な演算処理による過負荷の熱を急速に発散する必要あり。急速冷却中。急速冷却中」

 最後にタカオの武装が24時間ロックされたのを確認しながら、403はコアを中心に発熱したを冷まし始める。
 それは人間が風邪に掛かり、高熱を出す症状に似ていて。
 403は顔をぽやーっとさせて、黄色に染められた着物を揺らしながら、艦橋の中心にへたり込むのだった。

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