ハーメルン
ダイの大冒険異伝―竜の系譜―
第05話 必然の対立



 実際のところ、ベンガーナ軍を引かせるだけならば話は早いのだ。こちらが折れてバランを国王名代にでもする。で、一言抗議を届けにいけばいい、それだけで今回の騒動は終わりだ。
 仮にそこまでアルキード側が礼を尽くしてなおベンガーナ側が聞き入れぬなら、そのときはもう一戦交えねば収まりがつかなくなるだろうが、それだって総力戦になりやしない。……まあ多少の血が流れるのは覚悟しなくちゃならないけど。

 とはいえここまでの状況の推移を思えばベンガーナも無茶はしない公算が高い。それだけに抗議の一つで手打ちにしてはもったいない、なにせ定例通りに終わらせてはお互い得るものが少ないままなのだ。
 うちは無駄にストレスと敵愾心を高めるだけに終わるし、ベンガーナも目論見半ばの消化不十分で引き上げとなる。これでは骨折り損のくたびれもうけだった。そんなこんなで一工夫してみようかと画策したのが俺である。

「貴国からわが国への合同演習の申し込み、ですか? これはまたなんとも……」
「まあまあ、まずはお聞きくだされ。先年わが国の王女であらせられるソアラ姫が、めでたく夫婦(めおと)の儀を結んだことはご存知でございましょう?」

 軍服に鎧を着込んだ壮年の男が困惑を隠さず語尾を濁すと、わが国の使者である初老の文官が愛想笑いを浮かべて宥めてみせる。

「はあ、勿論存じ上げておりますが、それが何か?」
「いえいえ、王女殿下の夫君であるバラン様はことのほか武に関心をお持ちの、それはもう質実剛健な為人をお持ち遊ばされていましてな。此度貴国の新兵器が試されるという噂を聞きつけ、是非とも一瞥の機会を、と仰ったのですよ。それゆえ不躾ではありますがこうして軍馬の労を取った次第」
「……これを口にするは大変心苦しいのですが、貴殿がいかなご無体を仰られているのか、自覚はありますかな?」
「無論存じ上げております。ですが貴国の訓練も少々熱が入りすぎているご様子。ここは一度ご休息を挟むのも指揮官の務めではありませんかな?」
「む、それは……」

 そもそも最初に喧嘩売ってきたのはベンガーナ(てめえら)のほうだろうが、文句言える立場だと思ってんのかこの野郎、と申しあげております。
 ふむ、この狐と狸の馬鹿試合ならぬ化かしあいはなかなか見応えがある。実に心癒されるね、間違っても足を踏み入れたくない世界だ。……いや、まあ、そんな阿呆なこといってる場合じゃないんだけどさ。

「しかし合同演習と仰られますが、そちらは十名にも満たぬ小勢ではありませんか。これではとても形になりますまい。それとも貴国はわが国の軍事機密を盗み見しにきたのですかな?」
「これは異なことを。私は『バラン様が興味を示している』と申し上げましたよ。ことにバラン様は謙虚なお方でして、ご自分のわがままに家臣を付き合わせるは忍びないと口にされましてな。それゆえ人を選抜してきた経緯があるのですが……そういえばその折、『あの程度ならば私一人で十分に制圧できる』とも漏らしていたような。――おっと失礼、これは口が滑り申した」
「な――っ!」

 うわーい、実にお見事。これぞ慇懃無礼の見本例として教科書に載せても良いくらいだ。さすがに弁舌を生業にしてるだけあって的確に相手の臓をえぐっていく。あまりにあまりな言い草に相手さんのこめかみに血管が浮き出そうだ。

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