ハーメルン
ダイの大冒険異伝―竜の系譜―
第07話 肝胆相照



 バランとソアラにラーハルトのことを頼まれた翌日、自身に割り当てられた執務室の戸を開けると既に先客がいた。
 相変わらず目深に被ったフードと身体全体を覆うマントによって異様な雰囲気を醸し出している。上司から何も聞かされていなければ迷わず回れ右をして衛兵を呼びつけるところだ。
 そんな不審者ことラーハルトは、無言のまま涼やかな佇まいで俺に一瞥をくれるだけだった。寡黙な性分……というよりは口を開く必要性を認めないから黙っている。そんな感じだな。

「遅れて申し訳ありません。少々別件を済ませていまして、思いのほか時間がかかってしまいました」

 ゆっくりとラーハルトの眼前を横切り、抱えた書類の束を執務机に丁寧な手つきで置いてから、改めて客人と向かい合う。いや、今日から俺の部下だったか? 先日からここまでのやりとりを振り返るとどっちが上役かわかったもんじゃないけど。
 せめて雄弁に無関心と主張するその空虚な瞳の色をもう少し隠せないものだろうか。それは『人』ではなく『物』に向ける温度だろうに。
 まったく、見事なまでに無愛想だこと。取り付くしまもないとはこのことだ。

「さて、先日は自己紹介も交わしていませんでしたね。私はルベアと申します。以後お見知りおきを」
「ラーハルトだ。此度貴様の配下として励むよう命じられた、いかようにも使うがいい」
「貴公の着任を歓迎します」

 勤労意欲があるのは良いことだとなけなしの思いで納得し、自然と溜息が漏れ出そうになるのを必死に堪えた。昨日のバランやソアラへの態度を見るに、持って回った言い回しだって心得ているだろうに、俺に対してはこの冷ややかでそっけない対応ときた。……せつない。
 いや、この場合はバラン達以外の大多数に対するものなのだろうから落ち込む必要もないのか? おそらくこの男にとっては、俺たちのことなど『等しく価値のない』事象に過ぎないのだろう。

 まさしく不遜と呼びあらわすのに相応しい有様だ。ナチュラルに偉そうなのは魔族の血に流れる強者としての矜持なのだろうかと意識を飛ばすことしばし。その片手間で秘技愛想笑いを炸裂させている俺だったが、王宮の高官がこんな態度取られたら頬が引きつるだけでは済まなそうだ。
 まあバランが拾ってきたことは伝わっていたようだし、勝手の違う魔族出身ということで多少はお目溢しも期待できるだろうけど。『触らぬ神に祟りなし』の精神で避けられているであろうことも否定しない。
 私的にはもう少し形式への心配りがほしいと切実に思う。本気で敬意を払う必要はないが、それを表に出すようではいらぬトラブルを呼び込みもしよう。

「私はバラン様から、あなたを私の補佐として扱うよう言われています。相違ありませんね?」
「二度言わせないでくれ、好きに命を下せと既に明言したはずだ」
「わかりました、それではこれから打ち合わせを始めましょう。ああ、そうそう。そちらに応接セットを用意してありますので、好きなほうの席についてお待ちください。今、お茶を入れます」

 目で指し示す先には執務机とは別の卓と椅子が用意されている。お茶請けも完備してあるし、完璧だな。

「歓待は無用。すぐに仕事にかかるほうがお互いのためになるのではないか?」
「やる気があるのは好ましく思いますが一言二言で済む話でもありませんよ。その間ずっと立ちっぱなしというのも疲れてしまいます。ここは私の顔を立ててください」

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