ハーメルン
転生艦足柄と提督の秘密
提督は17歳

 ちゃぷ。
 これは慣れ親しんだ水の音だ。
 目を開けなくても分るのは、私が船だからだ。

『――。』

 風は優しく、穏やかな凪の日らしい。
 暖かい日の光もあった。
 きっと、雲一つ無いに違いない。
 こんな海を、軽く巡航〈はしった〉ら、とても気持ちが良いだろう。

『――ら』

 大海原に描かれる曳き波は、遠く遠く、水平線の彼方にまで届くのだ。

『―がら』

 私の艦名〈なまえ〉を呼ぶ声で、ゆっくり目を開けると顔が三つ並んでいた。
 妙高・那智・羽黒 ――私の姉妹艦だ。

『―しがら』

 でもどうしたことだろう。
 妙高は深刻そうな顔をしている。
 羽黒など泣きそうだ。
 でも、那智が私の目の前で手の平を振っているのは、何故だろうか。
 挨拶と言うよりは、診断の様に見える。
 ……目を開ければ?
 あれ?
 姉妹艦が~しそうな顔?
 あら?
 艦艇に、顔? ……ちょっと待って。
 そもそも、那智姉さんと羽黒は沈んだ筈……

《お主の願いを叶えてやろう》

 って事は――突然暗くなったのは、那智が右手を高々と掲げているからである。
 何なのだろうか、その自信満々な顔は。
 まるで、壊れたおもちゃも叩けば直ると言わんばかりでは無いか。
 何なのだろうか。
 敬礼の亜種かと思えば、どう見ても手刀の打ち下ろしではないか。

「ちょ、まっ!」

 制止を促す私の声は、残念ながらほんの少しだけ遅かった。

「斜め四五度チョップ!」
「きゃーーーっ!」

 パッコーンという腹が立つ程心地よい音は、空と海の狭間に消えた。



 巨大な貨物を吊したりするガントリークレーン。
 船が接岸する為の岸壁・桟橋。
 姉妹らに連れられて歩くその場所は、見慣れた軍港だ。
 なのに違和を感じるのは、見慣れない大勢の陰陽師たちが居るからだ。
 木製の巨大な鳥居があれば、神社の雰囲気すら合った。

「いや、お疲れ様です。三度目の正直と言いますが大型艦は難しいですか?」
「金剛は素直でしたが、この船は実に手強かったですな」

 白い軍服を着た将校が、年老いた陰陽師をねぎらっていた。
 どういう事だろうか。

「もう駄目かと思ったわ。余り心配させないでね」

 軽く振り返りながら言うのは、長女らしく先頭を行く妙高姉さんだ。

「足柄は、二度艦娘への儀式に失敗している。羽黒より遅いのは、その為だ。三度目で駄目なら、中止に成る予定だった」

 私の右隣を歩く那智姉さんは、見るからに厳しそうだ。
 失敗……神の影響だろう。
 他に考えられないし。

「足柄姉さんは、人の体に戸惑いがないんですね。羽黒はビックリしました」

 最後は羽黒だ。
 控えめに一番最後を歩いていた。

「(そりゃぁ、経験済みだなんて、言えないし)」
「ごめんなさい。今なんて?」
「あ、ごめん。なんでもないのよ羽黒ちゃん」
「やっと会えたかと思えば、まだ寝ぼけているのか。この調子ではさい先不安だな」
「那智姉さんに叩かれた頭が痛いのよ」

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/2

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析