ハーメルン
ミジンコの俺がラスボス級悪役お嬢様とベストエンドを迎える方法
成立

「私に近寄ってくる人たちなんて、浅はかでつまらない人たちばかり。かく言う私が、つまらない人間の最たる者なのですから、それも仕方のない事なのでしょう」

 独白――自嘲するように笑みをこぼし、柏木は歩き出した。
 誰もが(うらや)む容姿、優秀な頭脳に運動神経、それに立派な家柄。なんでも揃っているお嬢様にも思う所はある、と言ったとこか。やれやれだ。

「馬鹿か、お前は」

 俺の言葉にぴくりと反応した柏木が、足を止めて振り返った。じっと見つめる、無機質な瞳が冷たい光を帯びる。

「馬鹿?」

「あぁ、そうだ。馬鹿で足りないなら大馬鹿の称号をくれてやる。赤の他人が外っ面だけで判断する? そんなもん当たり前だろ。お前の内面なんて、最初は誰も知らないんだからな。そこに初めから、無償で踏み込んでくれるのなんて家族ぐらいなもんだ。だから身内って言うんだろ」

 偉そうに講釈を垂れてはいるが、半ば以上、彼女に当たっているようなもんだ。ほんと、何様のつもりだ? オレ様かよ。

「それで? 自分はつまらない人間? しかも最たる者ってなんだよ、つまらない人間グランプリの殿堂入りでもしちゃってんのか? そもそも、誰と比べて、何をもって、つまらない人間だなんて言ってんだ? まさかとは思うけど、自分は持って生まれただけの容姿や家柄で着飾っているにすぎない、裸になったら何の価値も無い人間だから、なんてテンプレ自虐お嬢様のセリフを言うつもりじゃないだろうな?」

 わずかに眉根を寄せた柏木は、反論するでもなく黙ったまま、続きを促すように瞳を細めてみせた。その視線に体温が奪い去られていくような感覚を覚え、体がぶるっと震えた。果たして俺は、この死線を越える事が出来るだろうか。

「――おいおい、まさかの図星ですか。確かに、恵まれた容姿や家柄に産まれるってのは運だ。それに群がる奴らがいるってのもわかる。だからって、なんでそれが自己否定に繋がってんだよ。逆に俺からすれば、それがわかっていて、なお自惚(うぬぼ)れない柏木を正直すげーと思うよ。俺だったら、それこそテンプレの悪役お嬢様よろしく勘違いしちゃってさ、すげー天狗になってるね。間違いなく裸の王様状態だね、そんでもって将来は破滅エンド不可避だわ。だけど、お前は違うじゃねーか。そのお前が、上辺の飾りが無かったらなんも価値が無い? そんな訳ねーだろ」
 
 頭では()せと制止をかけているにもかかわらず、(せき)を切ったかのように俺の口は止まらない。柏木も遮ることなく、そんな俺の言葉に耳を傾けている。

「お前の中身は空っぽか? そうじゃないだろ? 学校で習うような知識だけじゃなく、今までしてきた経験が、良かった事も悪かった事も全部ひっくるめて詰まってる。それは、お前が積み上げてきた、お前だけの財産だ。そんで、そこから紡がれたお前の考え方や価値観、性格なんかは個性ってやつだろ。生まれ持った容姿や声なんかも個性だし、得意、不得意の分野だってそうだ。それは、他人と比べて優劣をつける必要があるのか? 大事なのは、それをどう活かすかじゃないのか? 言ってみればお前は、世界にたった一人、唯一無二の存在なんだよ。つまりだな――お前は、もっと今の自分を認めてやるべきなんだ。誰に遠慮する必要もねー、ばーんと胸を張ってりゃあ良いんだよ」

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