ハーメルン
ミジンコの俺がラスボス級悪役お嬢様とベストエンドを迎える方法
悪夢
パッと広がった視界に、見慣れた天井が映り込んだ。カーテンを透過した陽差しが部屋の様子を浮かび上がらせている。
目だけを左右に動かし、現状を確認出来たところで、もう一度、
瞼
(
まぶた
)
を閉じる。
唐突に視界が遮断されるあの感覚。どうやら新司がバッドエンドを迎えたらしい。助かった――ゆっくりと肺を膨らませ、大きく息を吐き出した。
電波時計に目を向けると、五月七日の火曜日、六時二十分を表示している。つまり――本日二度目の朝を迎えたわけだ。
ゲーム上のセーブポイントだった、今朝からのやり直し。それは登校時の
星奈との邂逅
(
アクシデント
)
に始まり、ついさっきの冤罪騒動までの濃密な一日が、奇麗さっぱり消去された事を意味する。
――まったく、やれやれだ。
何はともあれ、新司を褒めてつかわそう。ナイスバッドエンド! グッジョブ!
良いのか悪いのか、よくわからん表現だが、今回は助かったと感謝せずにはいられない。あのままでは社会的にだけでなく、生命的な意味での抹殺もありえた。柏木家が抱える噂の執事さんは、それはもう容赦ないらしいからな。
【男子高校生、ぷにっと肉まんで窒息死?!】
自分の死後、恥ずかしい記事が新聞の片隅に掲載されるなんて想像するだけで恐ろしい。リアル世界ならネットで『色んな意味でかわいそうwww』などと草を生やされたりもするのだろう。
それにしても――何を思って星奈はあんな事をしたのか。
確かに星奈は、設定上、主人公キャラと
攻略対象
(
ヒロイン
)
キャラとの恋路を邪魔する存在だ。それが何故、俺にハニートラップを仕掛けてきたのか。
考えのまとまらない頭で天井を見つめたまま、その視界に入るよう真っすぐ右手を伸ばす。仙桃の感触と大きさを思い出すかのように、無意識にわきわきと動く右手。
急にパチリと照明が点けられた。
「えっ?! あれ? にぃに……もう起きてたの?」
スイッチに手を置き、これぞ【きょとん】のお手本といった表情の美亜が立っていた。音もたてずにドアを開けて入るとか、どこで身に付けたのそのスキル。もしや、
暗殺者
(
アサシン
)
クラスのサーヴァントなの?
「あぁ、ちょっと……いや、かなり恐ろしい夢を見てな。ちょうど目が覚めたところだ」
「そう……なんだ。何してんの? その手。誰かに助けでも求めてたの?」
布団から右手だけを出して天井に伸ばす俺を見て、美亜が不思議そうに尋ねてきた。
「ん? あぁ、そんなとこかな」
「それってどんな夢だったの?」
上体を起こした俺は、美亜の方へと体をくるりと回してベッドの縁に腰かけた。
「星奈か……んんっと、せなか……そう、暗い夜道を歩いていたら、急に背中から刺されたんだ。貫通した刃先が胸から飛び出してさ、かなりのホラーだったよ」
夢として語るにしても、ありのままを話せるはずもない。星奈信者の美亜からしたら、星奈を冒涜するようなものだ。誤魔化すために強引に話を作ったが、これならありがちな夢だと思ってくれるだろう。
[9]前話
[1]次
最初
最後
[5]目次
[3]栞
現在:1/3
[6]トップ
/
[8]マイページ
小説検索
/
ランキング
利用規約
/
FAQ
/
運営情報
取扱説明書
/
プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク