ハーメルン
ミジンコの俺がラスボス級悪役お嬢様とベストエンドを迎える方法
今日から俺は

【アマガミッ!】――恋愛にトラウマを抱えた男子高校生がクリスマスまでに彼女を作る、といった内容のVR恋愛シミュレーションゲーム。実況動画で興味を持ち、俺が寝落ちするまでやっていたゲームだ。

 さっき起こしに来た女の子。主人公の妹キャラ【美弥(みや)】が兄を呼ぶ時に使う【にぃに】は、特徴的であり、彼女の魅力の一つでもある。そもそも俺には、妹などという天使は存在しない。両親との三人家族だ。
 それから主人公のお気に入り漫画であるフィーバー三国志。こいつはヒロインとのコミュニケーションツールとして地味に活躍するアイテム。
 そして、この部屋だ。ゲームでの一日の終わりは、【もう寝るとするか】のセリフとともにこの部屋で締めくくられる。見覚えがあるはずだ。

 ここは【アマガミッ!】の世界――この推測でまず間違いないだろう。
 問題はこれが夢の続きなのか、あるいはラノベやアニメでありふれた異世界転生で最強? なのかという事だ。夢ならそのうち覚めるだろう。異世界転生であるなら疑問が湧いてくる。
 
 俺は誰かを庇ってトラックに()かれてもなければ、偶然居合わせた暴漢に刺されたりなんかもしていない。当前だ。部屋に引きこもって朝までゲームをしていただけなんだから。つまり、死んでもいない……はず。
 なので、残念ながら真っ白な世界で幼女の神様なんてものに出会った記憶も無い。その記憶が既に消されている、その可能性も考えられなくはないのだが。

 自分でも意外なほどに、どこか他人事のように感じられ妙に落ち着いている。
 そりゃあ、鬱蒼(うっそう)と木々の生い茂る森の中や、中世ヨーロッパのような世界で目覚めて言葉が通じない――なんてハードモードな状態なら焦りもする。だが、ありがたい事に、目の前に広がっているのは和室に日本語だ。
 窓から外を(うかが)ったところで、ドラゴンが飛んでいるといったファンタジーな要素も見られなければ、ベランダに修道服を着た幼女が引っかかっていたりもしない。
 仮に幼女を拾ったとしても、連れて帰れば誘拐もしくは拉致監禁の罪で、警察のお世話になるのは間違いない。そんなありふれた、日本の日常が広がっている。
 それでも、ここは試しておくべきだろう。男のロマンを。

「ファイアッ・ボルトォ!」

 ……。

 窓ガラスには、左手を右手首に添え、大きく開いた(てのひら)を突き出してたたずむ、少年の姿がおぼろげに映っている。言うまでもなく俺だ。
 手首を掴んでいる左手はそのままに、右手をくるりと(ひるがえ)す。左手の親指にトクン、トクンと一定のリズムで伝わる脈動。脈拍、異常なし。
 さてと、まぁ、一応? もう一つくらいは試しておくべきだろう。俺の適性が速射魔法とは限らない。うん、どちらかと言えば、長ったらしい詠唱呪文に憧れる系少年だからな。

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