ハーメルン
ミジンコの俺がラスボス級悪役お嬢様とベストエンドを迎える方法
ハイスコアガール
「……ぃに、にぃに、そろそろ起きないと朝ご飯、食べる時間なくなっちゃうよっ」
体を揺すられ、頭がぼーっとした半覚醒状態で目を開ける。すでに制服に着替えた美亜が、だらしない兄に向かって頬を膨らませていた。
「ん、あぁ、もうそんな時間か。おはよう、美亜」
「もう、にぃにの分のぷにっと肉まん、用意しておいたから食べてよねっ」
世話が焼けるとばかりに勢いよくカーテンを開ける美亜。暖かそうな陽射しを浴びて気持ち良さそうに伸びをしている。なんだろう、やっぱり俺の嫁? な気がする。
「美亜は将来、良い奥さんになれるな。出来る事なら俺が貰いたいくらいだよ」
「ふぇ?! なっ、なななっ、何を朝から変な事言い出すのよっ!」
変な事か? 本当にそう思ったから言ったんだけどな。美亜が真っ赤な顔で睨みつけている。むくれた顔も可愛いけど、これ以上は止しておこう。
「すまん、すまん、冗談だ。しかし、おかしいなぁ、目覚ましかけたはずなんだけど」
「むぅ。目覚まし時計なら鳴る前にっ、じゃなくって……えーっと、ちゃ、ちゃんと鳴ってたよっ! にっ、にぃにが止めたんじゃないの? 美亜、もう行くからねっ」
何を焦っているんだろう? そんなに慌てて行ったら危ないぞ。
「あぁ、いってらっしゃい。車に気を付けてな」
「……もう、小学生じゃないんですけど?」
部屋から出て顔が見えなくなる直前、美亜が目の下を指で押さえ、可愛くちろっと舌を出して見せた。なにあの可愛い生き物。やはり妹を嫁に出来ないのは間違っている。
さて、今日も一日、お助けキャラとして頑張りますか。
☆
午前中は、何事もなく終わった。合間の短い休憩時間は、自然と集まる奴らと談笑して過ごした。もちろん新司も一緒だ。何てことない雑談だったが、久しぶりの雰囲気を俺も楽しんでいた。そうして迎えた昼休憩。
「新司、昼めしはどうするんだ?」
「今日は食堂でパンでも買って食べようかと。光太は?」
「そんじゃ、俺もパンにすっかな。行こうぜ」
「あ、その前にトイレに寄っていいかな?」
「おうよ」
☆
「なんだ? 今日は一段と込み合ってるな」
「ごめん、僕がトイレに寄ったせいで出遅れちゃったね」
「いや、気にするな」
そうは言ったものの、購買にはパンを買い求める生徒たちが波のように押し寄せて溢れかえり――さながら人の海が出来上がっていた。
成長期真っ只中の胃袋を満たすには、この大海を潜り抜けなければならない。高校生も日々戦っているのだ。
「しかしこれは、どうしたものかな」
思わず呟いた俺の言葉に反応したのか、一人の生徒が振り返った。つられる様にもう一人、それにつられて更にもう一人。そこまでいくと、後はドミノ倒しを見ているかのようだった。
一人を起点にその波が広がり、そして――海が割れていく。おぉ、これはモーゼの十戒で有名なあれか。俺は今、神の力を得た。
なんてアホな事を考えていたら、誰かが横を通り過ぎていった。
背中まで届く奇麗なプラチナブロンド。鼻をくすぐる甘い匂いを残して、その少女は割れた海の真ん中をさも当然のように歩いていく。
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