魔王
剣と魔法による閃光・爆音が、あらゆる方向から聞こえている事に、今更ながら気がついた。
「あれは駐在の騎士団や冒険者達に因る反撃です」
ナナさんが言うには、この世界には女神継承を良く思わない連中が存在しこの襲撃はそれに因るモノ、なのだとか。
そうしたら料理長……アクセルさんが「ワシは各個撃破にあたる。ナナはマスターを広場へ連れて行け。騎士団や冒険者たちが陣を築いとる」と言うや否や、魔物達の群集へ臆する事無く突き進んでいった。
「はぁっ!」
出くわす魔物を片っ端から倒していくナナさんの背中は、この修羅場において凜々しくも頼もしい。
お陰で、余裕ができた。
「ナナさん。あの魔物たちはどこから入り込んだんですか?」
「冒険者達の協力を得て、外壁の破壊を調査中です」
なるほど……んあ? 引っかかる。
「あの堅牢な壁を? 三層なのに?」
「……その筈です」
何故だろうか。
ナナさんの物言は、自分自身に言い聞かせている様だった。
◆
ブラックスミス達がバリゲードを構築するする鎚の激しさ。
討伐に向かう冒険者達の行進。
食料を求める人々の騒ぎ。
慌ただしい場所を抜けて、俺がやって来たのはこの地域の司令部を兼ねる教会だ。
避難してきた人に混じって水を飲んでいると、一人の騎士が血相を変えてナナさんに駆け寄っていった。
『西区角のサンセット広場! 南部のイチョウ公園! 東部のシーウルフ広場! そして北部のゲート前! プレセンティアの至る所に魔物が現れています!』
『戴冠式前を狙ってくるとは……外壁の調査はどうなっている?』
大型モンスターが外壁を突破したならば、大きく破壊されている筈だ。
発見は容易い筈である。
『それが、未だ発見出来ていません』
『外壁の調査を急がせろ』
『シスターナナ。アルケミストらが、大規模な空間転移〈ポータル〉の反応を捉えたと言っていますが』
『……外壁の調査を続けなさい』
『ナナよ』
それは戻ってきた料理長〈アクセル〉だ。
旧知であろう物々しい冒険者達を引き連れていた。
『ナナよ。ワシは首謀者に心当たりが在る。お前もそう思っているのではないか?』
『あり得ません。あのモノは死んだ。それはアクセルもよく知っている筈です』
『だがな、これ程の魔物を空間転移〈ポータル〉させる力を持つ者が他に居るか?』
ナナさんらが討議に使っているプレセンティアの地図がふとが目に付いた。
ホワイトボードならぬウッドボードに貼り付けられたそれを、じっと見る。
何かがひっかかった。
記されたバツ印は、特に大規模な襲撃ポイントだ。
それらを結ぶと、歪ながらも孤を描いている事に気がついた。
「北から北東へ、北東から東へ……」
全ての孤を結んだ結果が、俺には円に見えた。
襲撃地点に規則性がある?
この襲撃には、誰かの意図が反映している?
「円……円の特長……」
円弧を点の連なりと見なせば、全ての点から等しく遠いのは円の中心だ。
そこにある施設は……俺はその事実に血の気が引いた。
「ナナ! シスターナナ!」
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