御柱の御許で3
世界に異常が現れていた。
浮いている小石を蹴飛ばしたら、地に落ちること無く、空に消えていったのである。
「まーくん、あれを」
ポーラの指す方を見れば、穴の開いた空を見る事が出来た。
赤く染まる空に、真っ黒な亀裂が入っていたのである。
「世界の終わり〈リミット〉が近いな」
「はい」
それらは、塔を動かす女神が四年間も居ない結果だ。
魔王の大規模な魔法の行使も、影響していると見るべきだろう。
「行こう、ポーラ。これ以上は待てない」
「……はい」
俺たちが抜けてきた森の茂みからは、追いつく者は誰も現れなかった。
◆
アーヤの塔は大きかった。
くり抜いた山に埋め込んだ、と言われれば信じてしまいそうな程だ。
裾は滑らかに広がっており、登るにつれて細い筒形状になっていた。
遺跡の様な、石を積み立てた様な表面をしていなければ、それこそ軌道エレベーターだろう。
山肌が残るその塔の根元に在るのが、神殿である。
所狭しと並ぶ石柱が、平らな屋根を支えていた。
それは古代ギリシャ建築に似ていた。
俺は、見物客にでも話しかける様に、歩み寄った。
「正直に言うと、神殿の前に突っ立っているとは思わなかった。兄弟子よ……いや、姉弟子か?」
魔王は振り向くこと無く、神殿を見上げていたのだった。
「この神殿に入れるのは日没後以降だ。だからこうして刻を待っている」
「貴女が創ったんだろ? 何故そんな不便な事をした」
「創ったのは我の片割れだ。迷い故に消えてしまったがな」
魔王は振り向いた。
端正な目鼻立ちは、黒いフードに隠れて全く窺えなかった。
「何をしに来たと言いたいが、お前なら何があっても来ると思っていた」
「俺も、貴女がそう思うだろうと思った。ほら、俺らは同門だ」
一瞬ではあったが、魔王の気配は、驚いた事に、優しいモノだった。
「そうだ。それが、我らが唯一共有するモノだ。よかろう、直々に引導を渡してやる」
瞬間移動か、それとも時間停止か。
魔王はローブに隠していた細い手で、俺の首を掴んでいた。
ギリと首がねじれる音がする。
「あぐ、」
「ところで、お前の弟子はどうした?」
「……直に来、る」
「まぁいい。直ぐに会う事になる」
俺は、手にしていた両手剣をなりふり構わず打ち下ろした。
断った筈の魔王は陽炎の様に消え、呪いを吐く手は、俺の背中に宛がわれていた。
魔王のそれは、俺の出来の悪さを嘆いているようにも聞こえた。
「悪あがきも良い所だ。見るに耐えん……死ぬが良い!」
俺の体は間も無く風船の様に弾けて消える、筈だった。
それを防いだのは、パラパラ漫画の様になんの予兆も無く魔王の頭上に現れた、ポーラである。
その手の祭器〈ナンバーズ〉は、音を出す程に濃い光を放っていたのだ。
流石の魔王も驚いた様だ。
「空間転移〈コンサブダクター〉だと!?」
それはポーラが得た新たな力だった。
転移先は登録者〈おれ〉の居場所に限定されるが、他の空間転移とは異なり、水中だろうと荷物があろうと、行使条件が一切ないのが特長だ。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/5
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク