スーパーヒロイン(最終話)
マスターと呼ばれた者は、塔の中にあった。
かつて持っていた肉体も自我も無くなり、ただ塔を操作するプロセスとして、塔の至る所に存在していた。
塔が支える世界には無数の喜怒哀楽が永遠に存在し続けたが、一喜一憂しない代わりに押しつぶされる事も無かった。
無数の因果を、ただ紡ぎ続けたのである。
ところがある時、一つ瞬いた。
塔の中に浮かぶそれは、夜の海を渡る船を導く北極星と呼ぶのが適当だろうが、それはあり得ない事だった。
それを修正しようとした”マスター”と言うプロセスは、その機能を止めたばかりか、急激に因果を遡り始めた。
内包していた塔の記録は大半が失われ、塔の操作能力が失われ、かつての身体が戻り、かつての自我が戻った。
『――ここは、どこだ? 俺は誰だ、俺はどこだ……』
―― こっちです ――
北極星の瞬きでその瞳に理性が戻る。
マスターと呼ばれた者は、導かれるまま歩き出したのだった。
◆
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気がついたら、見知らぬ場所に立っていた。
至る所にある幾何学的な模様は、驚いた事に、形を絶えず変えていた。
宇宙船内部を最初に想像したが、神殿が適当だと落ち着いた。
そうだ、目の前に立つローブ姿の誰かには、そちらの方が似合っている。
「お前が主神アーヤだったんだな」
そのローブ姿の誰かは、俺をあの世界に落っことした張本人だ。
それとも張本神だろうか。
その神は無遠慮に近づくと、俺の手を取った。
「まずは礼を言わせてくれ、サンキューだぜ。次は謝る」
その神は、一歩引いた後に深々と頭を下げた。
「巻き込んで済まなかった」
こうも直球に謝られると、用意しておいた文句の”も”の字も、言えなくなってしまった。
ポリポリと頭を掻けば、沢山の出来事が胸裏を駆け抜けていった。
それは大変だったが、大事なモノでもあったのだ。
なので俺は誤魔化す様にこう言った。
「背後の人影は?」
「ともだちだ」
アーヤの後ろには、かつて無かった複数の人影があったのである。
真っ黒なスタンドポップ形状なのは、次元が異なるからなのだそうだ。
その内の二つが、寄り添う様に立っていた。
ガーディアン夫妻のコントラクトとアージプリムティアに違いない。
俺の視線を感じたのだろうそれは、小さく揺らいだ。
代弁するアーヤは、二人の思いを如実に語っている様に思われた。
「二人がすまねぇってよ」
「済んだ事だ。もういい」
他のスタンドポップ達が、規則正しく揺れ始めた。
俺にはそれが喜んでいる様に見えた。
「アーヤは一人じゃ無かったんだな。安心したというか、拍子抜けしたというか」
「ついさっき、再会できたんだ。何もかもポーラのお陰なんだぜ?」
発達障害彼女
~スーパーヒロイン育成計画~
「ポーラの?」
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