深き底より呪われし
狩人の夢に、再び立ち戻る。
ここに戻ってきた訳。それは、武具の手入れと共に、人形らに感謝を伝えようと思った為である。
彼らに、工房の用い方を教えて貰った。さもなくば纏い切りをこの異邦の地で放つ事は出来なかっただろう。あの獣を斃す為に、又、修羅の怨嗟を用いなければならなかったやもしれぬ。
恐らくは、これを用いねば、この異郷を乗り越える事能わず。だが、使う度、その心を羅刹に、獣に占められる。無闇に使う事は許されぬ。無比なる強大な力に酔いしれる事は、残った全てをすら喪う事に相違ならない。選び、使わなくては。
顔を上げる。が、そこには人形は居ない。
その、生き物では無い為か、忍びには気配を感じる事は出来ない。故に視線を遠くに向ける。すると墓を参る彼女が居た。
「…嗚呼、お帰りなさい、狩人様。
狩りは、成就なさいましたか」
「ああ。感謝する」
「いえ。力になれたのならば、嬉しく思います」
恭しく頭を下げて、美しい声はそう音を上げる。
狼は、常に誰かに従って来た者。忍びとはそういう者だ。
故に、恭しく、忠を示される事に慣れておらず、何処かむず痒いものがあった。どうも、それに耐え切れずその元を離れる。
工房の中、助言者ゲールマンを探す。
だが居ない。
元より、霧のように朧げで儚い存在。彼についてもまた、気配を感じる事が出来ない。
頭蓋に触れた警句。『兼ねて血を恐れ給え』。
あれがどういう意味であるのか。判らないが、今の己に必要になるものなのだろうか?少なくとも、弦一郎はそう言っていた。
助言者を探す事を諦め工房を出る。
すると、地から呼び声がする。ようやく慣れ始めた、使者達の声である。
その異様で不気味な外見はまるで、その地の底に己を引き摺り込もうとしているかのよう。だが、彼らはあくまで友好的で、助力をしてくれている。
初め、彼に『狩人』としての武具を手渡してくれたのも彼らだった。狼が選択した銃と、奇怪な、鉈のような武器は、その手に馴染ませる事が出来ず致し方無く工房の肥やしとなってしまっている。
だが、今。
工房の使い方を知り、義手へと仕込む事が出来る様になった今ならば、あれらをも使い、我が牙とする事が可能なのではないのか。そう思う。
今、彼らが差し出しているモノも、己の新たな武器として役に立つ代物であろうか?
が、そういう考えとは裏腹に。
差し出されていたモノは、想像とは程遠い物体だった。
これは、目だ。かの病に罹患し侵食され、瞳孔を溶かした者の目。気味が悪い、歪な眼玉。何故渡されたのか。
しかし恐らく、使者達はこれらを善意より自らに贈ってくれている。無碍にするには、忍びない。故に仕方なく懐に仕舞った。
もし何か謀っていたり、また、善意から来ていようと、それが己を死の苦痛へと突き落とそうとも。己は死なない。
ならば、良い。
そう、思った。
さて。
彼は、何処に行くべきであるか。
狩を成就する為に、血の医療を冀った彼はしかし、医療を独占する教会にて教区の長の獣を斃す事と相成った。他の者も、余程正気とは思えない。では、どうするべきか。
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