市街を巡る
「なるほど⋯この市街から聖堂街に向かうには、大橋を使うほかないのですが。獣狩りの夜、橋門が閉じられているとなれば、そうもいきませんね」
「…他に道を、知らぬか」
「うーん⋯であれば、下水橋はどうでしょう?大橋を挟んで市街の南側に…なんというか、あまりよくない地域があるのですが。そこから聖堂街に下水橋が架かっていたはずです」
「…済まぬ。礼を言う」
「ごほっ、ごほっ。いえ。貴方の幸運を祈っています。ただ…」
「…何だ」
「…事情もおありでしょうが、できるだけはやく此処を離れた方がいい。この街で何を得ようとも、私にはそれが人に良いものとは思えません…」
無言に、立ち去る。
例え、そうであろうとも、己は最早戻りは出来ないのだ。
こうして下水に向かう。当然ながらあまり行きたくは無い場所でもあるが、そこにしか道がないと言うならば仕方がないだろう。
…
……
暫く、群集より隠れつつも市街を進む。
これもまた病に罹ったのだろう、犬を手裏剣で仕留めながら先に進んで行く。そうすると、一つ。犬に吠えかけられた民家を見つけた。それはきっと、内に確かな気配を感じる故だろう。
後ろよりその犬を殺害し、その家の門を叩く。
用心深く、少しの時間の後、返事は帰ってくる。
老婆の声だった。
「…なんだい、あんた狩人かい?だったら、知らないのかい?どこか安全なところをさ。あたしゃあ知ってるよ、もう家の中だってダメらしいじゃあないの」
確かに、今しがた狂犬に吠えかけられ、何をされるか分かったものではなかったのは事実。この老婆は正しいのかもしれない。
だが安全な場所、他にそれがあるだろうか。
ふと、『狩人の夢』を思い浮かべた。だがあそこは、余人が立ち寄れる場所では無いだろう。そして、そこを除けば、思い当たる場所など微塵も無かった。
「…知らぬ」
「なんだい、そりゃあ役立たずだね。それとも、ババアに用はないってか?ああ、よそ者なんて所詮そんなものだよ!」
「…どうせ、あたしらをおかしいと思ってるんだろう!消えちまいなよ!あたしゃあ知ってるんだよ!」
そう捲し立てられ、その会話は一方的に終わらせられる。なんともまあ、やるせのない気持ちになりながら、また市街の探索を続ける事とした。
…
……
そこからまた少し、歩いた。
こちらが道だろうかと、脳内の地図を更新する為に、探り探り。
するとその人物はそこに居た。
それは、漸くこの異邦の地に慣れてきた狼からも、異様だった。烏羽の装束と、同じく烏のような仮面。全身の色合も当然のように濡烏。
ただ正気の、人間であることはすぐわかった。獣の病の獣臭がしなかったし、何しろその気配は手練れのそれであった。意識と正気を失えば出せぬ気配だった。
近づくと、その人物は忍に気付く。
「…おや、あんた、狩人かい」
「……」
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