ハーメルン
和風ファンタジーな鬱エロゲーの名無し戦闘員に転生したんだが周囲の女がヤベー奴ばかりで嫌な予感しかしない件
第七話 狂人は一周回ると分からない
広い屋敷の片隅で、身を寄せ合う二つの小さな影が文字や絵を書いた巻物片手に何やら囁きあっていた。
『ねぇねぇ■■、またけいかくについてかんがえようよ!!』
『こら!小さい声で言って下さい!……誰かに聞かれたら面倒なんですから』
先程まで大人達にその奔放さが祟り叱られていた少女が語る。またいつもの病気だな、と少年は思った。とは言えそれに付き合うのも彼の仕事だ。余り聞かれて良い内容ではないので少女の口元に人差し指をかざして声を小さくするように頼みこむ。
『へへ、わかった。けいかくはふたりだけのひみつだもんね』
『本当に分かっているんですかね……。はい、これはこの前まで考えた計画書ですよ。今回は何を考えるんです?』
『だっしゅつしたあとどんないえにすむか!あ、あとなんにんかぞくがいい?』
夢見がちな少女の荒唐無稽な計画、それが叶うなぞ有り得ないことを少年は理解しているし、今後の事を思えばあってはならない事だとも理解していた。しかし……彼女の境遇を思えば空想する自由くらいはあっても良いとも思っていた。それが彼自身の立場からして危険な事であるとしても……ある意味で少年は不幸な少女に絆されていた。尤も、後ろの方の質問は無視するが。
『はいはい、村で暮らすのは少し難しいですね。人が少なくて閉鎖的だから。となると人の流れが多い街か、後はひっそりとした山の中で畑を作るかです』
少年は少女に現実的な内容の提案をする。少女は夢見がちであるし、単純であるが馬鹿でもなければ間抜けでもない事を彼は知っていたから。だから出来るだけ真剣な提案をした方が彼女も自身の馬鹿な話に正面から付き合ってくれていると思ってくれる。
『いっしょにたんぼつくろ!!わたしね、ももがすきだからたくさんももえんつくるの!!』
『そちらが良いんですか?うーん、実際暮らすなら街の方が楽なんですけどねぇ?』
『えー、いや。ひとがたくさんなのきらい』
少女は心底不満そうにする。彼女の境遇を思えば知らない人間ばかり沢山いても怖がるだけなのは仕方ない事だ。彼女にとっては沢山の人間なぞいらないのだ。ただほんの少し、頼れる大切な人々さえいれば。……少なくともこの頃の彼女にとっては。
彼女が万人を助けようとする責任感を身につけるようになるのは力に目覚め、多くの民草を救い感謝されてから。それによって自己肯定出来るようになってからの事だ。
『はいはい、姫様の仰るようにしましょう。まぁ二人ならば最初の内は山の幸だけでも食べてはいけますが……え?だから家族は何人が良いかですか?姫様、山の幸が豊富とは言え二人以上の腹は満たせないですよ?仲間を増やすのは……そうじゃない?話を誤魔化すな?やれやれ、何の事だか。はいはい雛、そう怒らないで下さいよ………』
口元を膨らませて拗ねる少女に少年は宥めるように謝る。しかしそれが子供扱いされているように思えて少女は余計に怒るのだ。尤も、それだって直ぐに忘れて少女は唯一の頼りになる人間にまた甘えるのだが。
『ごめんよ、本当に許してよ雛……』
『むー、しかたないな。ゆるしてあげる。だからもっとなでてね?』
余り人の前でしたくない必殺技、頭を撫でるを使う事で少年は眼前の問題を処理する。確かゲームでは昔村に住んでいた頃に父親にしてもらって以来ずっと誰にもしてもらってなかったのだったか。気丈だが実は甘えん坊な所もある彼女がゲーム内で好感度がカンストすると主人公に頭撫でるようにお願いしていた筈だ。まぁ、今は別に子供だし背負うものもないので割と簡単に撫でさせてくれるし本人もお願いするのだが。
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