ギルデロイ・ロックハートの『有名学』
――1992年9月 ホグワーツ3号温室前
ハリーは今朝の吠えメールが最後の厄介ごとだと信じていたが、受難が続くことをすぐに悟ることになった。今年度最初の薬草学、その教室に移動する前に、自分が傷つけた暴れ柳に沢山の釣り包帯がされていることを見て、苦々しい気持ちになったこともそうだ。そして極め付けが、教室に入る前に、『妙に』カサンドラと仲が良さそうな優男、ギルデロイ・ロックハートに呼び止められたことだ。彼はスプラウト先生に少しだけハリーを借りることを一方的に告げると、温室の外で神妙に切り出した。
「ハリー。私は自分が恨めしい。私はあなたに教えるべきでないことを教えてしまった」
彼が何を言っているのかさっぱりわからなかった。悔しそうに顔を歪めて苦しそうに胸を押さえる仕草は実にサマになっていて、絵になるが――言っていることは脈絡がなく、ハリーは少しも理解できない。
「昨日のことですよ。空飛ぶ車でホグワーツに乗り付けた、アレです」
「ああ……。ごめんなさい先生。反省してます」
ぼんやりと、ハリーは理解した。ギルデロイは説教をしに来たのだと。新任らしく、張り切っているのだろう。カサンドラも年度が始まったばかりのときはピーブズを処刑しかけたりして、暴走気味だった。
ロックハートも新任教師として、新学期早々問題を起こしたハリーに一言言いたいのだろう。さすがのハリーも『説教の練習台にされてる』と感じるほど捻くれてはいないが、わざわざ今でなくてもいいだろうとは感じている。悪いのは自分なので何も言わないが。
――それにしても、ロックハート先生の授業はまだなのに、僕に何を教えたっていうんだろう?
「いえ、いえ。悪いのは全て私なのです。
そう、私はあなたに蜜を味わわせてしまった……。有名になるという、選ばれた人間にしか得ることのできない蜜を」
「――はい?」
「ハリー、あなたはきっと、魔法界が自分の行動に一喜一憂するということに味をしめてしまったのです。この前は自宅で魔法を使ってみせて、一面を飾りましたね。次はこの私とのツーショットです。かと思えば空飛ぶ車で登校です。無理もありません。大人たちにも問題があるでしょう。いい事をしても、悪い事をしても取り上げてもらえる。それは幼いあなたにどれほど甘く、素晴らしく感じることでしょうか」
ハリーは彼が何を言っているのか、何を言いたいのか、今の段階になっても理解できなかった。どうやらロックハートはハリーが『有名になりたい』と考えているという前提の元話をしているようだが、ハリーはけしてそんなつもりはない。
「あの、先生。僕、有名になりたいなんて思っていません」
「私もです!しかし、私の、そして私たちの偉業はいくらそう思っていても、人々を惹きつけてやまないのです。そう、あなたの場合は『例のあの人をどうこうした』。私の場合は著作にもあるような冒険の数々。そして、『週間魔女』の『チャーミング・スマイル賞』を5回連続で受賞するという栄光」
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