またあえるとは
このベンチにふらりと来てから、どれだけの時間が経ったのだろう。
広場や遊歩道をゆく影は見えなくなり、ライトの白く透き通った光が私を舞台役者みたく目立たせるだけで、それ以外の世界は暗闇に飲み込まれている。
私は白い息を両手に当て、何度目か分からないため息をつく。
3月の中旬にも関わらず、細やかな雪が降り続けている。そのためか、指先はすっかり悴んでしまって、学校の冬服では隠せない膝の頭が、赤く赤く腫れてしまっている。
つい先日、第一志望の高校に落ちた。
幸い、控えの高校は合格していたので、高校生になれないことはない。
でも、私はどうしても凡矢理高校に行きたかったのだ。
なぜなら、好きな人と一緒に、同じ高校に行けるから。
他の人からすれば、不純な動機に映るかもしれない。
たとえそうだとしても、そのために私はあれだけ頑張ってきたのだ。こんなに熱心に取り組んだのは、私にとって初めてかもしれないのだ。
でも、私の不器用な努力は水の泡となってしまった。
思わず涙が零れてしまいそうになって、私はスカートの裾をきゅっと締める。
自分が腹立たしくて、呪いたいほど情けなくて、それでも心を虚無が埋め尽くしていく。
朝のおはようの挨拶も、帰り際のまたねの挨拶も。
一緒の高校じゃないと叶いもしない。悲しさが胸の奥を繰り返し締め付けてくる。
「――――小野寺?」
不意に、私を呼ぶ声がするりと入り込む。信じられない。私は声のした方へ恐る恐る振り向く。
「どうしたの、こんな所で」
「は、葉山君?! 葉山君こそどうしてこんな……!」
「オレは……少し散歩」
私の半径周り数メートルしか光のなかった世界に、同級生の葉山紫恩君が入り込んでくるだけで、覆っていた暗闇を吹き飛ばしてしまう。
こんな時だというのに、胸の高鳴りが止まらない。
そんな大バカ者な私だから、神様からの罰として試験に落とされたのかもしれない。
首元にチェックのマフラーをワンループ巻きにし、膝に届きそうなほどのダッフルコート。手足がスラリとした葉山君に、これ以上なくしっくりきている。
葉山君は一歩一歩ゆっくりと私に近づいてくる。
「受験の結果、宮本から聞いたよ」
アメジストのように透き通った瞳が鮮やかに映る。葉山君は私と人二人分ほどあけ、一冊分積もった雪を振り払い、同じベンチに腰を落ち着かす。
何も口にしない彼は目の前の広場を捉えながら、所在なさげな私の隣にただ居てくれる。
私は盗み見るように、葉山君の横顔を見つめてしまう。
耳周りが短く、刈り上げの隠された、ツーブロックヘアー。色白で整った、中性的な顔立ち。女子の私が唸るほど、男子の葉山君は見目麗しい。
私は多分、うっとりとした目つきで彼を見つめてしまっている。
……葉山紫恩君こそ、私が想いを寄せる人なのだ。
「そうだ、小野寺」
「あ、はい!?」
「マフラー貸すよ」
「え、ええ?!」
葉山君は巻いていたマフラーをするすると解き、私の方へそれを軽々放り投げてくる。驚きっぱなしの私も咄嗟に反応し、どうにか落とさずキャッチする。
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