ハーメルン
ふたりでいると
ふれあいたくて

 秋冬を超えて、季節は再び春を出迎えた。
 今日から中学三年生を迎えて、いよいよ受験生として勉強に本腰を入れないといけない時期に突入する。

 それなのに、校門をくぐる私は、掲示板に張り出されているだろう新クラスの名簿表が気が気でならない。
 るりちゃんらとまた同じクラスになれるのを望むより、私は一人の男の子とそうなりたいと願ってしまっている。

 すると、掲示板と校門のちょうど中間あたりで、隣に駆け寄る足音がしてくる。

「おはよう、小野寺!」

 朝から彼に出会えるなんて、何てツイてるんだろう。

「おはよう! 葉山君!」

 元気よく返した私の挨拶に、葉山紫恩(はやましおん)君も笑って応える。

 中一終わりの階段、中二秋の中華丼の二件を通して、私と葉山君はようやくお互いに知り合った。
 中華丼の事件以降は、彼と出くわせば会話もするようになったり、図書館で一緒に勉強したり……。彼の姿を見たら隠れたくなるのも、自分から話しかけるには勇気がいるのも、相変わらずなのだけど。

 それでも、陽だまりの笑みで優しく話しかけてくれる葉山君のおかげで、私の日常はこれまで以上に彩られている。こうして並び歩いてる間も、明るい調子で話す彼に、私は安心感を覚えるしトキメキを感じてばかりだ。

 もし、彼と同じクラスになれたら、どれだけ一緒の時間を過ごせるんだろう。
 教室でも、食堂でも、図書室でも。それかもっと違う場所でも……。

 そんな想像をすればするほど、これからへの期待がどんどん高まっていく。でも同じように、一緒のクラスになれないかもしれない不安が、どんどんと増してきてしまう。

「一緒のクラスになれるといいね」

 まもなく掲示板が見えてくる所で、隣いる葉山君からの言葉に私は意表を突かれる。彼の声は透き通っていて、よく耳に入り込んでくる。

「せっかく仲良くなれたしさ。同じクラスならきっと楽しいでしょ?」

 彼は首を少し右に傾け、アメジストの瞳を合わせてくる。

「もし違うクラスでも、また会って話そうよ」

 葉山君は私が望む言葉を、さも分かってるかのように与えてくれる。
 もうこのままで時間を止めてしまいたい。
 こんなに嬉しくなるくらい、私はすっかり彼に想い入れ始めている。
 言葉を発せないで、頷き返すしかない私。
 こういうとき、恥じらいを隠せないで、何もできなくなってしまう。

「もう見えるんじゃない?」

 彼の一言で私は勢いよく面を上げる。
 二重ほどの人垣の向こうに、新たなクラス名簿が張り出されている。

 小野寺小咲はどこだろう。
 神様、どうか、どうかお願いします。
 葉山君と同じクラスにしてください。
 願掛けした後、一組から順に見ていく。
 一組じゃない。二組も……違う。三組……違う。四組は……ここにもない。五組は――――。

「あった」

 隣にいる葉山君が呟く。私は咄嗟に彼に振り向く。陽だまりの笑顔が顔中に広がっていく。

「この一年よろしく、小野寺」

 私は今どんな表情をしているんだろう。

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