ハーメルン
ふたりでいると
そんなところも

 中三の一学期も終盤に差し掛かった頃、一度だけ、葉山君と日直を担当したときがあった。

「小野寺! 職員室にプリントとか持ってこう」
「あ、そうだね! 待って葉山君!」

 クラスの皆が置いたプリント。チョークの跡も残らない黒板。盛んに聞こえてくる部活動の声。
 授業後の教室で彼と二人きりだと、色んなものが意識されてしまう。

 私は急いで通学鞄を肩にかけ、自分が運ぶ分のプリントを葉山君から受け取る。彼の持ってる量が自分のより地味に多い気がする。6対4くらいだろうか。

 二人並んで廊下に出ると、7月の暑さが身体を纏わりつく。いくら制服が夏服に切り替わったとはいえ、暑いものは暑いし、あんまり汗でべたつかないか心配になる。

「小野寺ってさ、お姉さん?」
「い、いきなりどうしたの?」

 葉山君が突拍子もなく尋ねてきて、私は汗に滑ってプリントを落としそうになる。

「なんだか、兄弟姉妹いそうな雰囲気がして。だとしたら、小野寺はお姉さんかなと」

 ものすごく曖昧な回答。けれど、葉山君の直感は、実のところ正解なのである。

「確かに、私はお姉さんで、それに――――」
「妹さんがいる、かな?」
「す、凄い……! どうして分かったの?」
「まあ……ただの勘だよ」

 たとえ勘だとしても、ここまで当ててくるのは中々出来ない気がする。葉山君は照れくさそうに外していた視線を、また私に向けてくる。

「妹さん、どんな子?」
「そうだね……(はる)って名前なんだけど、いつも元気活発な感じで、和菓子作りにとっても熱心な子でね。それに、とにかく可愛いの」
「いいね、めっちゃ仲良さそう」
「うん! とっても仲良しなの!」

 春の話を家族以外の誰かと出来て、私は彼女を思い浮かべながら心弾んでしまう。春は中学では寮生活をしているため、話すのも電話ばかりで私は寂しいのだ。
 ちゃんと元気に生活しているんだろうか。
 こんな心配をしても、きっと「お姉ちゃんの受験の方が、よっぽど心配だよ!」って春からは強く返されそう。

 そうだ、葉山君はどうなんだろう。私は一度外した視線を、再び彼のそれと合わせる。

「葉山君は兄弟姉妹いるの?」
「どうでしょう、当ててみ?」
「う~~ん……難しいなあ」

 首を右に傾げて笑みを返す葉山君に対し、私は少し上を向いて考えてみる。

 案外マイペースだし、一人っ子な気がする。
 いるとしたら、女の子に対する気遣いからして、女の子? 年上? それとも年下?

「もしかして、妹さん?」
「ぶっぶー、残念ながら不正解です」
「ええー、じゃあお姉さん?」
「そうそう、そちらが正解です」

 まるでクイズの司会者みたいに、軽快な口調で楽しそうな葉山君。こうやってノリに乗って誰かの真似するところ、確かに弟っぽさを感じさせてくる。

「葉山君、お姉さんがいるんだ」
「九つ年上だけどね。面倒見良い人だよ」

 九つも離れているとは。だとしたら、葉山君のお姉さんはもう社会人なのだろうか。
 それだけ離れていると、姉弟間の接し方とか、私にはとても想像できなくなる。

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/5

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析