第13話
「僕とアリスの幸せのために、ホモ盗賊の仲間よ……悉(ことごと)く滅べ」
ビシッと右手人差し指を洞窟に向けて言い放つ!
「お兄ちゃん、台詞格好良いけど誰も聞いてないよ」
頭にハテナマークを浮かべた純粋に不思議な表情をしているアリス。二人の間に冷たい春の風が吹いた……
「うん、言ってみたかっただけなんだ。だけど……どうしようか?」
「お兄ちゃんって本当にお茶目さんだよね。アリス、対応に困っちゃうよ」
美幼女に本気で心配されたぞ……今後気を付けよう、うん。まずは状況の確認だ。
僕達から洞窟までの距離は大体20m。今は腰高の低木の陰に屈んでかくれている。
観察すれば洞窟の手前に焚き火があり、多分だが生木を燃してるためか煙が洞窟内に流れている。
風向きにもよると思うが、あの洞窟は反対側とかにも出口が穴が開いているはずだ。
風が抜けるから煙が入るんだし……外に倒れているのは四人で、全員が盗賊風の格好をしている。立っている奴は居ない。
怒鳴り声や金属音は聞こえないが、残りの連中とラミアは洞窟の中か?それとも反対側の出口にでも行ったか?
洞窟は山の中腹にあり、抜けた煙が周辺から上がっていない。
「アリス、盗賊は洞窟の中でラミアと戦ってるみたいだ。だけど外に倒れている奴が居るのは……」
「煙を入れられて苦しくなって出てきて盗賊を倒した。それで外で未だ戦ってるのかも?
ラミアは植物の脂(やに)の煙を嫌うから洞窟の中には留まってないと思うよ」
そうか、わざわざ外に出て盗賊を倒して中に入ることはしないよな。苦手な脂(やに)の煙を吸い込んだらどうする?
うがい手洗い顔洗い……
「ラミアは泉に逃げて盗賊は追っていった?」
元気良く頷く彼女の頭を撫でる。サラサラな手触りは病み付きだ!
「あの林の中に泉が湧いてるよ。行ってみよう!」
アリスが指差した先には確かに20本くらいの高木が見える。距離にして50mくらい先だが、あの中に泉があるのか……
倒れている盗賊を確認しながら近付くと、全員が斧で叩き切られたような傷を負っている。
「うわぁ、グロいな……でも確実に一撃で倒してるよな。
頭に脇腹、それに背中か……おっ、コイツらは全員弓を持ってるな。
つまり煙を送り込み苦しくなって出てきたところを射殺(いころ)すつもりだったのか……」
和弓に似ているが弦の長さは1.5m程と少し短い。和弓は7尺程度だから2m近いはずだし。
試しに落ちている矢を引き絞って使えるか試してみるが大丈夫そうだ。
確か弓の中心より少し下を持ち、持ち手を突き出して引き手を胸の辺りまで引き絞って……狙いを定めて矢を放つ!
かなり力が要るが、矢は直線で20m程飛んで岩肌に当たった。
カツンと音を立てて落ちたが、音からして当たったときの威力はありそうだ。
命中精度は狙った場所から1m以内だから……下手だな、実戦では牽制くらいにしか使えないだろう。
周りを見回せば矢筒が有り12本の矢が入っている。
「命中率は悪いが牽制くらいにはなるな。アリス、泉に急ごう」
「うん、分かった。でも無理はしないでね。危険なら逃げることも考えて……」
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