緊張感
磯波と沖波と別れた後、鎮守府の要所を案内してもらった。食堂からまず一度あてがわれた私室に荷物を置いた後、今後よく使うことになるが今は使うことの無い大浴場と資料室を経由し、そのまま作戦室などの戦いに関する場所を見て回る。
念のため静かに前を通ったが、今は緊急の任務などは無いため、打ち合わせをしているようなことは無いようだ。見て回った部屋は基本的に誰もいない。ここが使われる時は鎮守府内もバタバタしてる時だと説明される。
「夕立もまだあんまり使ったことないっぽい。ここに来て日が浅いから」
「でも、実戦に出たことはあるんだ」
「うん。MVPは取れなかったけど、ちゃんと深海棲艦を撃沈したっぽい」
大体1ヶ月くらいは訓練を詰め込んで、実戦投入と同時に訓練期間が終了とのこと。別に頻繁に戦いがあるわけでは無いのだが、深海棲艦は神出鬼没。何日も連続で出現する時もあれば、何日も姿を見せないことだってある。訓練期間は人によってまちまち。
私、陽炎はどれくらいになるかはまだわからない。その時の戦況による。今はみっちり訓練して、その時を待つことになる。
「運が良かったのかな。訓練の方が大変って思ったっぽい」
「まぁ死なないようにするためだし、仕方ないと思う」
「ぽい」
訓練は戦場で死なないようにするためのもの。戦場よりも激しい訓練に耐えられるようで無ければ、戦場で命を落とす可能性は上がってしまう。
「じゃあ次はその訓練場っぽい。ルート的にそれが近いっぽいからね」
今度はその足で訓練場へ。鎮守府の近くの海を訓練の場として扱い、実戦訓練やらで己を鍛える場だ。今の時間は訓練している艦娘の姿も見える。激しい音と動きの中、実戦訓練のように2人の艦娘が戦っていた。
「おぉー、ちょうど訓練してる人いるっぽい。戦艦の人2人がガチタイマンでぽいぽいぽーい!」
「うわ……すごくハード」
鎮守府の中でも最も攻撃力が高い戦艦の人達が、持てる力を全て使っての演習中。訓練といえども手を抜くことはせず、本気で相手を沈めるつもりで戦っている。流石に撃っている弾は殺傷能力が無いペイント弾のようだが、音からしてあれが直撃したら普通に痛そう。
「あれ……怪我しないの?」
「する時はあるけど、普通はしないっぽい。あ、もしかして陽炎知らない? 艤装つけてると身体が頑丈になるんだよ」
生身の方も普通の人間とは比べ物にならないくらい頑丈になるらしい。例えば、ナイフのような刃物が通らなくなったり、激しい動きをしても骨が折れなくなったり。さらには今着ている制服がそれをより強化してくれる。
だからといって無茶は禁物。敵の攻撃が直撃したら、勿論死んでしまう可能性は普通にある。頑丈を上から乗り越えて、それこそ本来の人間の如く容易く吹き飛ばされることだってあり得る。当たり前だが、やっていることは命のやり取りなのだ。
「あの眼鏡の人が霧島さん、相手してる角の人が陸奥さん。うちの鎮守府でも屈指のすごい人っぽい」
どういう意味ですごいのかはあの訓練を見ていればわかる。ここから表情を確認することは出来ないが、命のやり取りを意識して真剣に取り組んでいると実感し、少しだけ緊張した。
あの2人の訓練は若干楽しそうにやっているように見えてしまったが、死ぬことは無いものの痛い目を見るのは当たり前。そしてそれを実践に移したとき、命の危機すらも付き纏うわけだ。
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