獅子は我が子を千尋の谷に落とし、上から伐刀絶技をブチかます
「もう一度言ってみなさいッ!!」
「……聞こえなかった? 『箱入りお嬢の実力なんて、高が知れている』って、言ったの……。分かったら、とっとと部屋に戻って……ストリップの続きでも、していたら?」
「ッこ、こいつ……コロスッ!!」
「わあああッ!? ま、待って、ヴァーミリオンさん! 一旦冷静になって!!」
「どいてクロガネ弟! そいつ殺せない!!」
「落ち着け、ヴァーミリオン! まだ試合は始まっていない!」
「なら早くして理事長! そいつ殺せないッ!!」
ステラ・ヴァーミリオンは憤慨していた。つい先だって故郷から日本へたどり着いた彼女の留学生活は、その一歩目から波乱の幕開けとなっていた。
事の発端は今から30分ほど前、ステラが寮の自室で着替えていたときまで遡る。
なんと彼女はいきなり部屋に入ってきた少年に裸を見られ、さらには理事長から『その少年と相部屋になる』などというふざけた宣告をされてしまったのだ。おまけに『断れば即退学』という理不尽な脅し付き。
ステラは早速、日本に来たことを後悔しそうになった。
――が、この時点では彼女もそこまで怒っていたわけではなかった。
自分の着替えを覗いた少年――黒鉄一輝は、ステラの姿を見ると即座に部屋を飛び出し、扉の先から誠心誠意の謝罪を行った。加えてその後の彼の話から、そもそも『この部屋は一輝の自室であり、彼は単に一人部屋に戻ってきただけだった』という事実も判明する。
つまりこの行き違いの原因は、自分たちを同室にした上でそれを伝えていなかった理事長にあり、彼自身に何ら落ち度はなかったのだ。
……まあそれでも、乙女の柔肌を見られたことに思うところがないわけではないし、彼が裸そのものには大して動揺していなかった点も、ちょっと悔しい気がしないでもなかったが。この時点で彼女の怒りはほとんど収まっていた。
ゆえに、理事長から提案された『親善のための模擬戦』を終えた後は、全て水に流して仲良くやって行こうと、前向きに考え始めていたのだ。
――試合直前に現れたこの女が、ふざけたセリフを言い放つまでは……。
『一輝とその皇女様が……同格? ……冗談、でしょ? 確かに愚弟は、未熟もいいとこだけど……さすがにその雑魚ちゃんよりは……マシな部類、だよ?』
……。
…………。
………………。
『…………は?』
この女は今……なんと言った?
まさか『このFランクが私よりも強い』と言ったのか?
さらに言うに事欠いて、この私のことを有象無象の雑魚であると……そう言ったのか?
……いや、愚弟という言葉から察するにこの女、一輝少年の姉なのか。
なるほど、つまりさっきのは自分の弟を擁護したいという身びいきから出た言葉なのだな?
ははーん。なんだ、口の割に弟想いなところがあるじゃないか。
よし、気に入った、殺すのは最後にしてやる。
『は……はは……お姉さん? 弟さんを想ってのこととはいえ、言葉には気を付けた方が良いわよ?』
『? 何を、言ってる? 半人前が、雑魚よりはマシって……純然たる事実を、言ったまでだよ? ……もしや皇女様……頭まで弱い?』
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