④
≪Observation by Asuka≫
ボクが所属するプロダクションは巨大なだけあって、大小さまざまなライブを数多く開催している。
観客キャパが百人程度の小規模のものは毎週全国百か所以上で、五百~千人程度の中規模のものも毎週数十か所で行っている。五千人程度の大規模のものは週に二、三か所。これらはすべて多くのユニットが出演する合同ライブである。その他にも、特定のユニットによる単独ライブはこれらとは別に規模も形態も様々な形で随時開催されている。
そして、一際大きな規模のライブが年に四回――五月、八月、十一月、二月――に開催される。こちらのライブも合同ライブだ。
ゴールデンウィークが終わった次の土曜日、つまり今日見学するのは、その五月公演だった。
観客は約三万。
このライブに出演できるのは、プロダクション内のヒエラルキーの中でも最上位に位置する選ばれしアイドルたちだけ。出演できれば、トップアイドルを自称しても決して過言ではないらしい。
まぁ、本当の意味でのトップアイドル――まさに頂の一点に立つアイドルユニット――の為のライブは別にあるのだが、アイドル歴一か月のボクにとってそれは、雲の上どころか宇宙空間の話だ。今のところ言及する気にはならない
「では、練習の成果を見せてもらおうか、飛鳥よ」
ボクの行きつけとなってしまっているレッスンルームでPが言う。準備体操と少々の基礎レッスンを終えたところだった。
五月公演の開演は夕方なので、午前中はいつものようにレッスンをしていた。ただいつもと違うのは、今日がレッスンの一つの区切りになるということだ。
一か月近く前から練習してきた二曲。二週間前からは、そのうちの一曲を集中的に練習していたのだが、二日前ようやくトレーナーさんからも合格判定を貰うことができた。それはつまり、この曲に限って言えばボクにもプロ並みのパフォーマンスができるということを意味している。
そこで最後にPの前で実演してみせて晴れて課題終了というわけだ。
「慶ちゃんがAパート、飛鳥がBパート、明ちゃんがCパート、でやってもらえるかな?」
「はい、わかりました!」
「う、上手くできるか分からないですけど頑張りますっ!」
「ボクが全部演ってもいいのだけれどね……了解だ」
ボクが全パート歌うわけではなくパート分けするようだ。そのために、わざわざルーキーのトレーナーである青木慶さんにも来てもらったらしい。
「あ、そうだ。一つ注意点というか、お願いなんだけど」
そんなPの切り出しに、ボクたちの「はい?」がハモる。
「本当にステージでやるつもりでパフォーマンスして欲しいんだ」
「と、いいますと?」
ボクと慶さんの代わりに、明さんが聞いてくれた。
「そのままの意味。本物のステージの上にいて、目の前に三万人の観客がいると思ってやってほしい」
「それは……はぁ、わかりました……?」
「慶ちゃ~ん、ほんとに分かってる~?」
「え、へ…?」
Pが薄ら笑いを浮かべながら慶さんの背後に回り込む。彼女の肩に手を乗せ、耳元で囁き始める。
「ほら……目を閉じて、想像してごらん……いい……?」
「えっ……あぁっ……」
「慶ちゃん……キミは今ステージの上。目の前にはキミを待つ三万人のファン。サイリウムがゆらゆら……揺れてるね?」
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