2話
「天龍ちゃん!!もうやめて!!」
ああ、やっぱり前任者はクソ野郎だったか。改めて聞くとずいぶんと好き勝手やってたようだ。そして突っ掛かって来た天龍は姉妹艦の龍田に抑えられながらも睨んで来る。
「前任者の悪行については予想はしていた、追って調査と報告もするし、死んで当然の奴だったってのは同意見だ。だがここは軍だ。上官殺しが起こった可能性があるなら調査しなくてはならない。しかも大本営が痺れを切らして全艦解体命令を出す前にだ。だから諸君らも調査に協力して貰いたい。」
「理不尽だろうが!!
そんな話に納得出来るか!!」
これだけ反応すると言うことはやはり深海棲艦の線は薄そうだな。ざっと見回したら張りつめた表情の戦艦や空母達と青ざめている駆逐艦達が対照的だ。
「ああ、理不尽だし納得なんて出来ないことは知っている。だがこれは命令だ。いくら上の連中が腐っていようとも軍に居る以上命令に従わなくてはならない。それは捨て石としてこの鎮守府に着任させられた私も同じだ。」
「捨て石だと?」
「ああそうだ、誰が好き好んで提督殺しが起きた危険な鎮守府に着任したいと思う?誰が前任者が好き放題やった後始末をやりたいと思う?生憎私は上の連中からは嫌われていてね、奴らからしたら私が殺されようが一向に構わないし、もし鎮守府の建て直しに成功したのなら、適当な罪を擦り付けて解任しようぐらいに思っているだろう。幸いこの鎮守府ならば問題になるようなことは山程あるからな。」
「なんだよそれ、なんで人間は皆そんな奴らばかりなんだよ・・・」
「軍人としての職業倫理のない一般人を提督の才能があるからと言って、力と権力を与えてしまった弊害だろうと私は考えているが、権力を持った人間は大概そんなもんだという気もするな。」
現実に絶望する天龍が黙ってしまった。つい辛い現実ってやつを語ってしまったか。他の艦娘の反応も似たり寄ったりだな。
「とりあえず話は以上だ、今後の諸君らの協力を期待する。今後の予定については夕食前に改めて通達する。何か質問がある奴はいるか?」
「では質問してもいいだろうか?」
そう言って挙手したのは長門だった。やはり艦娘達の取りまとめ役として責任感を持っているのだろう。
「ああ、なんだ?」
「提督は私達を、この鎮守府をどうしたい?」
「私も上の連中の良いように使われて終わるつもりはない。だから真っ当な鎮守府として建て直し、汚職等で付け入る隙を与えないようにし、上を黙らせる程の戦果をあげて提督の地位を守るつもりでいる。だから私は私のために諸君らの待遇を改善することを約束しよう。」
「わかった、理由はどうあれ待遇を改善して貰えるなら文句はない。私達は私達のために戦果を約束しよう。」
「他に質問がある奴はいるか?
・・・居ないのであればこれで解散とする。あと大淀・間宮・明石・長門の四名は今後の予定の打ち合わせをするので会議室に来るように。では解散」
「提督に敬礼!!」
敬礼をする艦娘達に敬礼を返しお立ち台から降りる。伝えることは伝えたし、色々と情報も得られたが先の事を思いやると憂鬱だ。それでもどんな形であれ最初の一歩は踏み出したのだ。上の連中に目にもの見せてやると決めた以上、歩みを止める気はない。
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