3話
新任の提督が去った後の広場は重油のような重苦しい雰囲気だった。前任者が殺されて地獄の日々を抜け出せたと期待していたが、待っていたのは全艦解体という暗い未来だった。天龍が激情に任せて放った言葉も「知っている、理解はしている、だが命令には従え」とばっさり切り捨てられた。最後に長門が引き出した「待遇は改善する」という言葉も上から解体命令が出れば意味はない。
「天龍ちゃん!!なんであんな無茶をしたの!?提督に逆らったらどんな目にあうか知ってるでしょ!!」
「悪かったよ我慢出来なくて、でも誰かが言ってやらなきゃダメだと思ったんだよ。あいつには俺らの苦しみなんて伝わらなかったみてぇだけどな・・・」
「もう無茶しないでよ・・・天龍ちゃんが居なくなったら私・・・もう・・・」
「わかったわかったって、俺の解体が決まった訳じゃないんだから泣くなって。」
そう言って龍田を宥める天龍を見て艦娘達は複雑な思いを抱く。堂々と提督に意見出来たことへの尊敬、危険な状況への心配、恐怖で動けなかった自分への失望、鎮守府の全員が解体されるかもという恐怖。様々な感情を処理しきれずに、ただただ俯くことしか出来なかった。
ただ一人長門を除いては。
「皆顔を上げてくれ。絶望的な状況だが希望が無い訳ではない。全艦解体の話も提督は覆すつもりと言っていたし、私達の待遇も改善すると言っている。そして私が艦娘の代表として以前のような状況にならないように交渉する。だから皆は私を信じて待っていてくれ。では大淀、明石、間宮ついて来い。」
そう言って堂々とした姿勢で去って行く背中は微かに震えていたが、恐怖してなお希望を求めて進む姿はまるでお伽噺の英雄のようだった。
――――――――――――――――――
先に会議室について今後の予定について考える。とにかくやることが多いし同時に進める為には自分一人では手が足りない。だから早急にやるべきことは艦娘を掌握し、効率良く動かせるシステムの構築だろう。無駄を省き任せられる場所は部下に任せる、しかし完全な丸投げ状態にはしない。これが自分が考えられる理想の提督だ。理想は所詮理想でしかないが、だからと言って目指さない理由はない。
コンコンコン
「入れ」
「失礼する」
考えも少しまとまったところで、呼んでおいた長門達がやって来た。席に座るように促すと、堂々とした足取りで進む長門に続いて、少し落ち着いて覚悟を決めた雰囲気の3人が後から入って来る。正直さっきの挨拶でやり過ぎたかと思っていたが、存外精神的に強い奴らなのかもしれない。
「ではさっそく始めよう。最初の議題は組織の構成についてだ。案としてまず大淀を秘書艦として私の補佐、主に事務関係を担当して貰う。そして長門を艦娘のまとめ役として主に軍事関係を担当して貰う。私の不在時には二人が責任者として判断することもあるだろうが任せられるか?」
「分かりました、精一杯務めさせて頂きます。」
「承知した。私に任せてくれ。」
「次に明石には資材の管理や外部への発注等を担当して貰う。出来るな?」
「はい、提督から業者の方々に挨拶をして、引き続き私が担当することを伝えて頂ければ問題ありません。」
「了解した、話が終わったらすぐに連絡をする。最後に間宮には食事に関することを任せる。贅沢をさせる必要はないが、きちんと食事をとることが出来る環境を整えて貰う。出来るな?」
[9]前書き [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/2
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク