Prologue
それはまるで、積み重なる頁のように。
犯罪に手を染める犯人がいる限り、謎を解く探偵が真実を明かす。
犯人は悪意を孕む。この世に悪意がある限り、犯人によって謎が生産され真実は闇に葬られる。
探偵は謎を解く。迷宮の如き暗闇でも、真実へと至る一筋の光を探し出す。
謎は探偵を求める、探偵は謎のある場所へと現れる。
始まりも終わりも見えぬ謎と真実の輪廻――紡ぎ、重なり、暴かれ明かされる。
***
日本の東京に特異点が発生した。
人理保障機関カルデアのマスター・藤丸立香にそう連絡が入ったのは、マイルームで後輩からオススメされた推理小説を読んでいた最中だった。
世界的に有名な名探偵の冒険譚。それも、宿敵を道連れにしたはずの彼が数年の空白を経て再び物語に戻ってきた巻だ。
後輩・マシュ・キリエライトと合流した立香が中央管制室へ入室すると、既に他の面々は集まっていたが小さなダ・ヴィンチちゃんとシオン・エルトナム・ソカリスが目に見えるほど神妙な表情になっている。
どうした、また阿鼻叫喚のイベントが始まったのか。
「最初に言っておこう。この特異点は、今までのものとは根本的に異なる特異点の可能性がある。実は、この特異点が観測されたのは少し前だったんだ。当初はあまりにも微小なため修正を後回しにしていたが気付いたらこんなに育っていた。さて立香君、東京都米花市という名前に聞き覚えは?」
「米花市?」
「最大の地域は米花町という町だ。近隣には杯戸町、鳥矢町など複数の町が隣接し、小中高学校、大学も点在し都心からの交通の便も悪くない。大きな病院もあり大型のショッピングセンターや駅前の商店街のようなライフラインのみならず、美術館や博物館、遊園地に水族館などの娯楽施設も充実している。郊外には自然公園も存在し、随分と暮らしやすそうな都市だね」
立香は日本全国の市町村の名前を知っている訳ではないが、流石に首都の地名ぐらいは大雑把だが把握している。が、「米花」という地名には覚えがない。
ダ・ヴィンチちゃんが説明したような充実した都会ならば、直接訪れずともテレビか何かで耳にしていそうだが、全く心当たりがない。
「マシュは知っている?」
「いいえ。日本地図にはそのような名前の都市は存在していないと記憶しています」
「正解だよマシュ。日本には米花という地名は存在しない。だけど、本来あったはずの都市が特異点の拡大とともにこの米花市に塗り替えられたんだ」
「出現したんじゃなくて、塗り替えられた?」
「そう、最初からそこに存在したかのようにね。完全に存在が確立してから中を覗いてみたら、この都市……犯罪件数が異常なのよ。1日で最大4件の殺人事件が起きているわ」
「1日、4件……殺人が!?」
「あり得ません! 日本は世界的に見ても犯罪発生率が低い平和な国のはずです」
「そう、ミス・キリエライトの言う通り、本来なら、だ」
「東京はいつの間にそんなに治安が悪くなったの?」
世界唯一の顧問探偵こと、シャーロック・ホームズがパイプを吹かしながらそう語る。
いや確かに、人と物と金が集中する都市は治安が悪くなる傾向にあり、東京も地方の田舎に比べたら怒涛の犯罪件数を誇る危ない都市だろう。
だが、護身のために一家に一丁の拳銃が常備されている都市に比べたら随分平和だ。深夜にコンビニが営業できて自動販売機が設置できるだけでも、日本の治安の良さは類を見ない。
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