ハーメルン
犯罪多重奇頁 米花
死者の食卓05

「これは……バランスが悪いな! 全てにおいて!」
「野菜が少ないね。もっと、葉物野菜のサラダとか作らないと」
「このローストチキンの焼き具合、随分と適当だ! これでは焼きすぎだ! 折角のジューシーな鶏の肉汁が全て流れてパッサパサになっている!」
「果物はなかったの? カットすればデザートになるのに」
「それに、全て加熱した料理だ。このアヒージョのホタテを、マリネやカルパッチョにする技量はなかったのか」
「海老のカクテルや冷製テリーヌが欲しいところだな」

 エミヤ、ブーディカ、ゴルドルフの意見をまとめると以下の通りである。
・メニューには野菜類が少なくサラダがない、デザートになる果物類もない
・全て加熱されている料理である
・料理は随分と適当に作られている

「さて、彼らの意見と容疑者3名から聞き取った情報を照らし合わせれば、おのずと真実は見えて来る。この事件は、非常に初歩的なものだ。私が推理せず(チートがなく)とも、マスターたちだけで解決できる」
「サラダがない食卓……っ! 分かりました。マシュ・キリエライト、犯人が分かりました! 先輩!」

 マシュも推理が構築したように、エミヤたちの意見を推理の材料とした立香たちも答えが出ていた。

「立香、石橋を叩く意味で尋ねよう。誰から()の声がした?」
「……編集者の、根岸浩樹」

 やはり、聞こえたのは立香だけだった。
 根岸と対面した瞬間、猫の鳴き声に似たか細く甲高い音が聞こえたのだ。
 それは、先日の杯戸町のショッピングモールで聞いたものと全く同じ。立香の中に、この人が犯人であると根拠のない確信をもたらす猫の声は、やはり今回も推理の過程をすっ飛ばして答えだけ教えてくれたのだ。

「ああ、犯人は根岸だ」
『こちらには猫の鳴き声の記録はありません。やはり、先輩にだけ聞こえる声のようですね』
「犯人が分ったなら警察を呼ばないと」
「待て。少し時間が要る。先ほど傭兵と狼王に使いを頼んだ、その連絡がまだ来ていない。「探偵」を演じているのだ、それらしい演出を用意してやらねばならぬ」
「……そこに、希望は?」
「ある」

 エドモンがヘシアン・ロボに何を頼んだかは分からないが、彼がそう言うならばこの事件は希望あるラストで幕が下りるのだろう。だが、そろそろ偲ぶ会がお開きになる時間だ。

「楽長、時間を稼いでくれ」
「良かろう。故人への鎮魂歌を贈ると家主に伝える」
「お願いします、サリエリ先生」
「魔女よ」
「あの3人を集めるのでしょう。推理の披露が始まるのね」

 サリエリとジャンヌが紺野の元へ走り、立香とエドモンはお互いの答えを確認する。
 彼らから少し離れた場所では、小五郎が頭を悩ませている。どうやら、彼の推理の進行は芳しくないようだ。

「うーむ……まさか、根岸さんが見た那須野氏さんは犯人の偽物で、根岸さんが帰った後で料理を……」
「だから、何であんなにたくさんの料理をする必要があった訳?」

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